A マンション等における騒音は、社会生活上受忍すべき限度を超えるものが違法となりますが、裁判例は複数の要素を総合考慮して判断しています。具体的には、音の大きさ、頻度、時間帯が主たる判断要素とされ、物件の性質、建物の構造、子供の年齢、騒音防止措置等の配慮の有無等を加味して判断されています。
個々の裁判例については後述しておりますが、おおむね40~50デシベルが深夜帯も含めて日常的に生じており、証拠化することができるのであれば損害賠償請求や差し止めを求めて訴訟や調停等の法的手続きを検討しうると考えられます。他方で、近年、近隣住民から生活音に対する執拗な苦情(クレーム)を受けて困っているという相談もあり、その場合には、生活音が40デシベル等の水準を下回っており、受忍限度を超えないことの確認を求めて訴訟や調停等の法的手続き執ることも検討に値すると思われます。個別具体的な事情においてはご相談いただければと存じます。
なお、検討にあたっての簡易な方法でありますが、騒音計等の貸し出し及び記録の残し方のレクチャーを行っております。簡易な方法による検討を経て、より正式な証拠とするためには、専門家によるJIS Z 8731:1999「環境騒音の表示・測定方法」によることが考えられます。当職は、測定ができる専門業者様候補を常に探しておりますので該当の業者様がいらっしゃいましたらご連絡をいただければ幸いです。
裁判例(肯定例)
東京地方裁判所平成19年10月3日判決は、鉄筋コンクリート造の3LDKのファミリー向けの物件において、被告の長男(当時3~4歳)が廊下を走ったり、跳んだりするときに生じる音がほぼ毎日原告の住戸に及び、50~65デシベル程度のものが多く、午後7時からときには深夜に及ぶことがあった事案において、慰謝料30万円、弁護士費用6万円を認めています。
東京地方裁判所平成24年3月15日判決は、被告の子(当時幼稚園児)が飛び跳ね走り回る等して、午後9時から翌日午前7時までの時間帯でもdBの値が40を超え、午前7時から同日午後9時までの同値が53を超えることが相当の頻度であった事案において、原告らの慰謝料各30万円に加え、治療費及び調査費用の損害賠償、並びに騒音の差し止めを認めています。
裁判例(否定例)
東京地方裁判所平成6年5月9日判決は、被告がフローリング床を設置したために衝撃音の遮音性能が低下したことを認めつつも、被告家族の起居、清掃、炊事等の通常の生活音に限られており、騒音の発生する時間帯も比較的短時間であり、テーブルの下に絨毯を敷き、テーブルや椅子の足にフェルトを貼るなどの措置を講じ、子の遊具を制限するなどして必要な配慮をしていたとして、原告の損害賠償請求を棄却しました。
東京簡易裁判所平成14年12月6日判決は、被告の子供らの騒ぐ声や駆け回る音が発生していたことは明らかであるが、原告がそれらの音を聴く時間帯は、3月の平日は午前中、4月からは休日くらいで、子供らのいる時間とそれほど重なっておらず、日中の比較的短い時間であること、子供らの騒ぎ廻る音とはいっても、原告の健康状態や生活環境を著しく害するほどの異常な騒音とはいえず,また、そのような状態が長い期間継続していたとは思われないこと、被告は普段子供らに対し、騒音をなるべく立てないようにそれなりの注意を与えていたことなどが認められるとし、原告の損害賠償請求を棄却しました。
東京地方裁判所平成27年11月18日判決は、「被告らの子が泣き叫ぶ声や被告らが子を叱る声、被告ら子がリビング等を走り回る音、被告らがサッシを閉める音、掃除機の使用音等の生活音が原告ら宅に伝播し、その程度が瞬間的に50デシベルを超え、70デシベルを超えることもあったことはうかがえるところである」と認定しつつも、「しかしながら、これらの生活音は、その発生原因の性質上、長時間にわたり恒常的に発生しているものではなく、短時間に発生しているにすぎないと考えるのが相当である」と判示しています。そして、「確かに、被告ら子の泣き叫ぶ声は瞬間的には著しい音量を伴い、それが一定時間継続するものの、被告ら子が平成25年当時、姉が小学3年生、弟が未就学児であるといった家族構成からすると、姉弟喧嘩等によって子どもの泣き声が響くことは被告ら一家の日常生活に必然的に伴うものとしてやむを得ない面がある上、被告らは,平成25年8月ころに成立した合意を受けて、被告ら子が20分以上泣くことがあったら窓を閉めるというように配慮をしていると認め」られ、「また、このような被告ら子の泣く声が深夜や早朝に響くことはほとんどないことからすると、これによる生活妨害が長時間に及んでいるとか、不相当な時間帯に発生しているということはできない」と判示しています。さらに、「被告らは、リビングにカーペットを敷いたり、被告ら子をリビングの奥の部屋で窓を閉めて遊ばせるなど、一定の騒音対策をしている」と認定しています。加えて、「原告は、本訴提起後も、被告らが毎日のように午前6時半ころから「ドン、ドン」と大きな音を立てていると供述するが、このような音を被告らが立てていることを認めるに足りる証拠はない」と判示し、原告の損害賠償請求を棄却しています。
その他、参照すべき裁判例としては、以下が挙げられます。裁判官によっても結論が異なる場合がありますが、類似の裁判例を参照することは見通しを検討するために重要と考えられます。
東京地方裁判所平成3年11月12日判決、東京地方裁判所八王子支部平成8年7月30日判決、佐賀地方裁判所昭和32年7月29日判決、東京地方裁判所昭和48年4月20日判決、東京地方裁判所平成24年6月21日判決、東京地方裁判所令和2年6月19日判決、東京地方裁判所令和3年3月26日判決

