A 仲介契約に多く見られる「売買契約時に半額、決済時に残額」との約定の場合、裁判例の多くは、既払報酬のほか、残額の一部について請求権を認めます。
当職の意見としては、仲介契約は売買契約の成立を目的とした契約であるため、売買契約が成立したときに報酬請求権は全額について発生し、ただ、支払時期については、売買契約時と決済時に分けられているに過ぎないと考えられるため、売買契約が解除されたとしても報酬請求権が全額について生じていることには変わりがなく、売買契約解除時に残額の全額が支払われるべきだと考えております。
しかし、裁判例は一様ではなく、多くの裁判例では、商法512条や当事者の合理的な意思解釈等により、残額の一部の請求を認めるにとどめます。
仲介契約を締結する際には、「仲介報酬の支払い時期は、売買契約締結時に半金、決済時に残金とします。なお、売買契約締結後に売買契約が解除・解約された場合には、解除・解約の理由を問わず、直ちに残金を支払うものとします。」との趣旨の条項を設けておくことが肝要かと思われます。ワーディングについてはご相談ください。
・東京地方裁判所平成6年9月1日判決
売買契約成立後、当事者による合意解約がなされた事案において、仲介手数料の残額(半額)の請求を認めました。
「一般に、報酬請求権は、仲介業者の仲介により売買契約が成立した時に発生し、売買契約が後に債務不履行解除されたり、合意解除されたりしても、原則的には報酬請求権に消長をきたさない。」「仲介業者に重要事項の告知義務違反等の義務不履行があり、それによりいったん売買契約が成立したものの、後に当該事由が起因となってこれが解除された場合には、報酬を請求し得ないものと解するのが相当であるが、本件では仲介業者に委託者の主張する債務不履行は認められない。」「報酬残金の支払期限を不動産引渡時と定めたときには、引渡しがされないことが確定的となった時点で支払期限が到来したものと解するのが相当である。」趣旨の判示をしております。
・東京地方裁判所平成15年2月27日判決
売買契約成立後、当事者による合意解約がなされた事案において、仲介手数料の全額の請求を認めました。
・東京地方裁判所平成15年3月25日判決
売買契約成立後、当事者による合意解約がなされた事案において、仲介手数料の残額(半額)の請求を認めませんでした。
「売買契約成立時に報酬の5割を支払う旨の約定がされているところ、売買契約は成立しており、その後、売買契約が合意解除されても、当該報酬請求権に消長を来すものではない。」「本件の報酬約定は、報酬支払時期を契約成立時と履行完了時に区分し、各取引段階に応じた仲介行為の成果につい報酬請求を認める趣旨と解されることや、手付損倍返しの約定もあり、双方の帰責性の有無にかかわらず売買契約が解除されて履行が途中で終了する事態が想定されていたといえることからすると、売買契約の合意解除が買主の責めに帰すべき事情に起因するものであったとしても、残額の報酬請求の要件は充足されず、既払の報酬を取得しうるにとどまる。」趣旨の判示をしております。
・福岡高等裁判所那覇支部平成15年12月25日判決
売買契約成立後に、手付解除がなされ、委託者は2000万円を取得したところ、仲介手数料として1000万円を商法512条により認めました。
「一般に,仲介による報酬金は、売買契約が成立し、その履行がなされ、取引の目的が達成された場合について定められているものと解するのが相当である(最高裁判所昭和49年11月14日第一小法廷判決・裁判集民事113号211頁参照)。特に、債務不履行による解除や合意解除の場合と異なり手付金放棄による解除の場合には、売買契約締結に際して解約手付(本件における手付金につき解約手付と異なる趣旨のものであるとの主張立証はない。)が授受されていること、すなわち、当該売買契約においては各当事者に手付放棄又は倍返しによる解約権が留保されていることは、仲介に当たった控訴人も当然認識していたはずであるから、仲介業者である控訴人としては、本件売買契約には手付放棄又は倍返しによる解除の可能性があることは念頭に置くべきであるし、控訴人にとって、そのような場合に備えて報酬の額についての特約を予め本件媒介契約に明記しておくことは容易であったと考えられる。他方、依頼者である被控訴人としては、本件媒介契約書に上記のような特約が明記されるか、契約締結に際して特に控訴人からその旨の説明を受けたという事情でもない限り、履行に着手する以前に買主が手付金を放棄して売買契約を解除したような場合にも仲介報酬の額についての合意がそのまま適用されるとは考えないのが通常であると思われる。これらに加えて、本件においては、本件媒介契約に基づく報酬金の弁済期が本件売買契約に基づく売買残代金の弁済期と同日と定められていること、一般に、不動産取引の場合、仲介業者は、契約成立後の代金の授受や目的物件の引渡等に関する事務も付随的に行うのが通常と考えられるところ、手付金放棄による解除の結果,履行に着手することなく売買契約が解除されればこれらの事務を行う必要がなくなることをも併せ考慮すれば、手付金放棄によって売買契約が解除された場合には報酬額についての合意は適用されないと解するのが本件媒介契約の当事者の合理的意思に合致するというべきである。」
「報酬について特約がない場合でも、仲介業者である控訴人は相当報酬額を請求できると解される(商法512条)。…一般に、特約のない場合に仲介業者の受け取るべき報酬額については、取引額、仲介の難易、期間、労力その他諸般の事情を斟酌して定めるべきであるが(最高裁判所昭和43年8月20日第三小法廷判決・民集22巻8号1677頁)、本件のように相手方が差し入れた手付を放棄して解除した場合においては、さらに、手付金放棄による解除がなかったとした場合に仲介業者が受領し得たはずの約定報酬額、解除によって依頼者が現実に取得した利益の額等をも総合的に考慮して定めるべきところ、本件では、手付金の額(2000万円)が売買代金額に対して比較的少額であること(手付金の額すなわち被控訴人が取得した利益が多額である場合には約定報酬額全額を請求しうる場合もあると考えられる。)、本件売買契約を成立させるについて控訴人が通常の場合以上に格別の労を取ったとか、逆に通常より著しく容易であったというような特別の事情、また、被控訴人が本件売買契約締結及び履行のために格別の出捐をしたという事情は窺えず、これが解除されたことにより著しい損害を被ったというような事情も格別見当たらないこと、被控訴人は手付金放棄による解除により、本件土地の所有権を喪失することなく2000万円を取得する結果となったことその他本件に現れた一切の事情を総合考慮すると,本件で控訴人が被控訴人に請求することのできる報酬額としては1000万円(消費税47万6190円を含む。)をもって相当と認める。」趣旨の判示をしております。
・東京地方裁判所平成17年3月24日判決
売買契約成立後、売買契約が合意解除された事例において、仲介報酬の全額を認容しました。
「仲介業者の報酬請求権は、売買契約が有効に成立すれば特約のない限り発生し、いったん発生した報酬請求権は、特約がない場合には、後日に売買契約が解除されても失われることにはならない。本件約定は、売買契約の履行を報酬請求権の発生要件とする趣旨ではなく、報酬支払時期についての特約にとどまり、途中で売買契約が解除された場合には、最終決裁が行われないことが確定した解除時に報酬残金全額を請求しうるものと解するべきである。」趣旨の判示をしております。
・東京地方裁判所平成21年2月26日判決
売買契約成立後、委託者の債務不履行により売買契約が解除された事案において、約定報酬額の8割の仲介報酬の請求が認められました。
「不動産売買に係る報酬額は、通常、売買契約の履行がなされ、取引の目的が達成された場合を想定してその金額が定められているものと解するのが相当であるから、当該契約が、合意解除、債務不履行解除その他の事由を問わず、現にその履行がされず、契約の目的を達しなかった場合には、特段の事情がない限り、売買契約が成立したという一事をもって、約定報酬全額の請求をすることはできない(最高裁昭和49年判決)ところ、本件では特段の事情はないから、約定報酬が一定程度減殺の対象となることは否めず、その限りで委託者の主張は理由がある。」
「本件では、売買契約が履行されずに終わった場合の報酬額についての定めはないから、仲介業者は、商法512条に基づき相当額の報酬を請求でき、報酬が売買代金額の約3%と一般的な金額であり、仲介業務に特別な困難はなく、仲介期間も特段長期間ではない(4か月程度)こと、売買契約が履行されなかったのは、専ら委託者の債務不履行によるものであることなどを勘案し、約定報酬額の8割である530万4000円を相当報酬額として認める。」趣旨の判示をしております。
・東京地方裁判所平成21年5月19日判決
売買契約成立後、買主の債務不履行により売買契約が解除された事案において、約定仲介報酬の全額を認めました。
「仲介業者の報酬請求権は、契約の成立を仲介するという仲介契約の性質に照らし、後日の売買契約の解除が仲介契約に基づく仲介行為がされ、それにより売買契約が成立したときに発生すると解されるから、売買契約の解除によって、約定報酬請求権は何らの影響も受けない。」趣旨の判示をしております。
・東京地方裁判所平成23年1月20日判決
売買契約成立後、委託者の債務不履行により売買契約が解除された事案において、不動産引渡時に仲介報酬の50%(4134万3750円。売買契約締結時に同額既払い)を支払うとの約定に基づいて請求し、結果、商法512条に基づき1000万円が認められました。
「委託者の責めに帰すべき事由により契約が履行されなかったときでも一定額の報酬を委託者に請求しうる旨の約定はされておらず、最高裁昭和49年判決にいう特段の事情があるものと認められないから、売買契約が解除された場合の定めがないこととなり、請求可能額は、商法512条に基づき、約定報酬額を上限として、諸般の事情を考慮して判断すべきである。」
「約定報酬額や売買代金額、仲介業者が契約内容の調整や重要事項説明書の作成も行ったこと、委託者の債務不履行を原因として売買契約が解除されたことを総合考慮し、既払いの4134万3750円のほか、1000万円を報酬金額とすることが相当である。」趣旨の判示をしております。
・東京地方裁判所平成28年12月21日判決
売買契約成立後の合意解除の事案において、約定報酬額の3割を認めました。
「不動産取引の仲介に係る報酬の金額は、特段の事情がない限り、売買契約が成立し、その履行がされ、取引の目的が達成された場合について定められているものと解すべきである(最高裁昭和49年判決参照)」
「支払約定書の記載を素直に読めば、対象不動産引渡時に支払う報酬についての合意であると解するのが自然であり、少なくとも、売買尾契約成立時に直ちに報酬請求権が発生する旨の特段の合意を示すものと解することはできず、他に特段の合意が成立していたことを認めるに足りる証拠はない。したがって、約定報酬については、対象不動産引渡しに至った場合に支払う旨の合意が成立していたと認められるから、売買契約の成立をもって、約定報酬請求権が発生したとは認められない。」
「もっとも、商法512条に基づき、相当な報酬を請求できるところ、仲介業者が売主の希望価格を交渉により減額させるなど、売買契約成立のために相応の尽力をしたこと、他方で、契約成立後に仲介業者が行う事務は多くなかったこと、委託者が得た3800万円を基準に支払約定書記載の報酬額の計算方法を適用すると120万円になること、仲介業者は手付解除の可能性を当然に予測すべきであったが、支払約定書でその場合の報酬額を取り決めなかったこと等を考慮し、410万4000円を相当報酬額と認める。」趣旨の判示をしております。
・名古屋地方裁判所平成29年3月2日判決(名古屋高等裁判所平成29年8月31日判決)
売買契約成立後の合意解約の事案で、商法512条に基づいて約定報酬額の約3割(売買代金額の約1%)の報酬請求権を認めました。
「委託者の援用する最高裁昭和49年判決のとおり解するのが相当であるところ、一般媒介契約約款には、最高裁昭和49年判決のいう特段の事情に当たる規定は存しない。本件特約による解約によって、取引の目的は達成されなかったものと認められるから、約定報酬額を定めた規定は適用されず、約定報酬額は請求できない。」
「もっとも、仲介業者は、商法512条に基づく相当額の報酬は請求できるところ、仲介業者が本件特約の条項案を起案し、売買契約の特約として設けたことのほか、売主の前主に対し、土地改良費用を前主が負担するよう当事者双方に有利となる交渉を行ったことなど本件に現れた一切の事情を考慮すると、相当額は、170万円(税込み)とするのが相当である。」趣旨の判示をしております。
また、控訴審では、「報酬支払時期が物件引渡時と合意されていることをもって、直ちに当事者間において商法512条の適用を排除する旨の合意があると認めることはできない。」趣旨の判示をしております。
・東京地方裁判所平成29年11月8日判決
売買契約成立後、売買契約が合意解除された事案において、決済時に支払うとされた約半額(53万0320円)を請求し、全額が認容されています。
「仲介契約に「仲介業者の仲介によって目的物件の売買等の契約が成立したときは、仲介業者は委託者に対し報酬を請求することができる」旨の定めがある。そうすると、報酬請求権は、売買契約の成立によって発生すると解するのが相当であり、契約時と代金決済時の2回に分けて支払うこととされているのは、発生した報酬の支払方法の定めに過ぎない。」
「売買契約が合意解除された場合にいったん発生した報酬請求権が消滅するのは不合理であり、代金決済が行われないことが確定した時点で支払期限が到来する。」趣旨の判示をしております。

