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辻田寛人
弁護士
 幅広く弁護士業務を行っており、中でも不動産業者様の顧問業務を多く取り扱っております。
 不動産業者様が日常的に疑問を持たれる法律問題についてすぐにご回答できるように日々研鑽を重ねています。顧問業務に限らず個別の案件のご依頼についても多数の経験を有しています。
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Q 町内会を脱退してもゴミステーションは使用できますか。自治会員でなくともゴミステーションを利用できますか。

A 自治会員でないことを理由にゴミステーションの利用を一切認めないことは、ゴミステーションの所有権を濫用するものとして不法行為に該当すると判断した裁判例があります。非自治会員の利用者は相当な対価を支払う必要があると考えられます。

【原審】神戸地方裁判所令和3年9月22日判決
 自治会員ではない居住者のゴミ集積所利用を拒絶したことが不法行為に該当するとした事例(不法行為肯定、利用できる地位肯定(控訴審では地位否定))

【事案の概要】
 原告は、原告が居住する地域の地方自治法上の許認可地縁団体(法人)(被告)から脱退したところ、家庭ごみをゴミ集積場に排出することを拒絶された。
 原告は、被告に対し、慰謝料請求とゴミ集積場に家庭ごみを排出することができる地位の確認を求めて提訴

【判旨】

(判旨抜粋)
 被告は、原告らの自宅の近隣に、本件集積場を含む別紙物件目録記載の土地を所有し、これをごみ集積場としての利用に供しているところ、平成31年3月頃以降、被告の構成員以外の者に対しては、地域住民であっても、その利用を拒絶することとした
 なるほど、被告は、本件各土地の所有権を有するから、その管理をすべき権能を有するものであるし、これらの土地をごみ集積場としての利用に供する場合、その管理方法を定めることができるのは当然である。
 しかしながら、国民は、廃棄物の適正な処理に関し地方公共団体の施策に協力すべき立場にあり(廃棄物の処理及び清掃に関する法律2条の4)、B市が、廃棄物収集の定点方式を採り、戸別収集及び個人によるごみの持ち込みを認めていないことに照らすと、被告がごみ集積場の管理をし、そこに住民の家庭ごみを排出させることは、B市の廃棄物処理の施策の一環として行われているものというべきであり、その運用に当たっては、同施策との整合性も求められる。この観点からは、地縁団体である被告が、被告の構成員でない者にも家庭ごみの排出を許容した上で、そのルールを定めるのであれば格別、被告の構成員でない者にはおよそ排出を許さないとすることにより、地域住民の一部の者についてごみの排出を拒絶することは、基本的に相当でないというべきである。
 また、本件各土地は、従来、URが所有し、地域住民一般が利用可能なごみ集積場として、その利用に供されていたのであり、被告がURから贈与を受けるや、被告の構成員以外の者の利用を禁ずるというのは、利用者の上記生活上の利益に関し、重大な変更をもたらすものとして、この点でも不相当である。
 本件各土地のごみ集積場に関し、被告は、非構成員には利用させないと定めるものであるが、前記1の利益の性質、重要性に加え、これらの土地がもともとごみ集積場として利用されていて、その後も同様の用途の下で利用される前提で被告がURから無償譲渡を受けたものであること(甲9)、原告らとしては、従前認められていたのと同様の利用をしようとしてきたにすぎないことに照らすと、被告が、その構成員でないことを理由に、原告らに対し、ごみ集積場の利用を拒絶することは許されないというべきである

 上記判示のうえ、家庭ごみを排出することのできる地位を認め、(原告2人で)20万円の損害賠償請求を認めた。

【控訴審】大阪高等裁判所令和4年10月13日判決
 自治会員ではない者のゴミ集積所利用を拒絶したことが、不法行為に該当するとした事例 

【事案の概要】(原審と同じ)
 原告は、原告が居住する地域の地方自治法上の許認可地縁団体(法人)(被告)から脱退したところ、家庭ごみをゴミ集積場に排出することを拒絶された。
 原告は、被告に対し、慰謝料請求とゴミ集積場に家庭ごみを排出することができる地位の確認を求めて提訴

【判旨】
 不法行為慰謝料について、原告一人あたり15万円とした。
 ごみ集積場の利用に関する合意が成立したということはできないとして、家庭ごみを排出することのできる地位は認めなかった。

(不法行為について)

(判旨抜粋)
 家庭ごみは、日常生活上発生することが避けられない廃棄物であり、それを排出、処分できないことになれば、衛生上、防災安全上様々な問題が生じることとなるのであり、家庭ごみを適当な方法で排出することは、清潔で快適な日常生活を送る上での基本となるものである。住民から排出される家庭ごみは、一般廃棄物として、原則として、一般廃棄物処理計画に従い当該住民の居住する市町村が収集、運搬及び処分をすべきものとされているところ(廃棄物の処理及び清掃に関する法律6条参照)、市町村のこのような行政サービスを受けるために、家庭ごみを市町村の定めた所定のルールに従い排出する利益は、基本的な日常生活に欠かせない、法的保護に値する利益であると解するのが相当である。そして、このような家庭ごみを排出する利益を正当な理由なく侵害する行為は、不法行為に該当すると言うべきである。
(2) 前記のとおり、URが本件各土地に設置し管理していたごみ集積場は、旧自治会に加入していない非自治会員を含めて地域住民の利用に供されてきたのであり、URから控訴人に無償で贈与された趣旨も、ごみ集積場を従前と同様地域住民の利用に供した上で、その維持管理を認可地縁団体である控訴人に移管するためであって、ごみ集積場を控訴人の自治会員だけのための福利厚生施設として贈与したものではない。前記前提事実(3)のとおり、被控訴人らの居住するB市では、市民の相互の話合い等により選定されB市環境局事務所と協議して決定されたクリーンステーションで一般廃棄物を収集する方法を採っているところ、控訴人が管理しているごみ集積場とは別にクリーンステーションとして利用できる適当な土地及び設備は存在せず、本件各土地のごみ集積場を利用できなくなれば、家庭ごみの排出が著しく困難となる者が出てくることは、控訴人においても容易に認識できることである。家庭ごみを適切に排出することができなくなれば、当該世帯の生活環境だけでなく、周辺地域の公衆衛生上も問題が生じるおそれがあり、ひいては環境の整備等良好な地域社会の維持及び形成に資する地域的な共同活動を行うことを目的とする(地方自治法260条の2第2項1号)認可地縁団体としての性格や清潔で明るく住みよい地域社会作りを目的とする(乙16、17)控訴人の目的に反することにもなりかねない。控訴人は、ごみ集積場の維持管理費用、ごみ集積活動についての自治会員の労務負担及び自治会員との均衡等を主張するが、上記のような維持管理費用、労務負担及び自治会員との均衡等を考慮して相当な対価の負担を求めた上でごみ集積場の利用を認めれば足りることであり、非自治会員のごみ集積場の利用を一切認めないことを正当化できるものではない。前記前提事実(4)のとおり、控訴人においては、掃除当番等を担当しない準自治会員の自治会費を年1万円としており、非自治会員についても、上記準自治会員の自治会費と同程度の利用料を対価として、ごみ集積場の利用を認めることで具体的な支障が生じるとは認められない。そうであれば、相当な対価の負担を求めた上でごみ集積場の利用を認めるなどの提案をすることなく、非自治会員のごみ集積場の利用を一切認めず、被控訴人らのごみ集積場の利用を拒否した控訴人の行為は、被控訴人らの家庭ごみ排出の利益を正当な理由なく侵害するものであって、不法行為に該当する
(3) 控訴人は、本件各土地は控訴人の所有地であり、任意加入団体である控訴人が非構成員である住民に対し構成員と異なる扱いをすることは許され、自治会費を負担しない非自治会員にごみ集積場の利用を認めれば自治会員との間で著しい不公平が生じる、被控訴人がごみ集積場を利用したいのであれば控訴人に入会すれば足りる旨主張する。
 しかし、従前から非自治会員を含めた地域住民の利用に供されてきた本件各土地及びごみ集積場の公共的性格や、家庭ごみが排出できないことによる弊害を考慮すれば、非自治会員の利用を一切認めない控訴人の行為が、所有権を濫用するものとして不法行為に該当すること、相当な対価の負担を求めることで自治会費を負担する自治会員と不公平な扱いとはならないことは、前記で述べたとおりである。ごみ集積場を利用したいのであれば控訴人に加入すれば足りるとする主張は、日常生活に不可欠なごみ集積場を利用して控訴人への加入を強制するに等しく、採用することはできない

(ごみ集積場に家庭ごみを排出することのできる地位の有無について)認めず

被控訴人らの上記地位の確認請求は、家庭ごみを排出するために被控訴人らに控訴人が所有する本件各土地及びごみ集積場を利用する具体的権利があることの確認を求めるものと解されるところ、前記2で述べたとおり、被控訴人らには、控訴人に対抗できる本件各土地及びごみ集積場の利用権を認めることはできない。控訴人が、被控訴人らに対し、相当な対価の負担を求めた上でごみ集積場の利用を認めないことが不法行為に該当するからといって、本件各土地及びごみ集積場の利用に関する合意が成立したということはできない

福井地方裁判所令和7年4月16日判決
 町内会を退会した居住者のゴミステーションの使用料を年1万5000円とした事例

(判旨抜粋)
 以上のとおり、使用料の算定基礎とできるのは、被告の活動に要する経費のうち186万8411円の限度であり、ここから補助金29万1972円を控除した157万6439円を町内の世帯数106で割ると、約1万4872円となる。これを基に、被告がごみステーションを使用するための使用料としては、年1万5000円とするのが相当である。