A 最高裁判所第三小法廷平成29年1月31日判決によれば、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできないとされており、有効である可能性が高いと存じます。
最高裁判所第三小法廷平成29年1月31日判決
専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできないとした事例
(判旨抜粋)
養子縁組は,嫡出親子関係を創設するものであり,養子は養親の相続人となるところ,養子縁組をすることによる相続税の節税効果は,相続人の数が増加することに伴い,遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは,このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず,相続税の節税の動機と縁組をする意思とは,併存し得るものである。したがって,専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても,直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。
そして,前記事実関係の下においては,本件養子縁組について,縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく,「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。
大阪高等裁判所平成31年2月8日判決
アルツハイマー型認知症と診断された養親による孫との養子縁組について、節税という合理的な目的があり、養子との関係が緊密であったことなどから縁組意思を認め、有効と判断した事例
(判旨抜粋)
(1) まず、本件縁組時点の亡親の意思能力等についてみる。
ア 被控訴人は、亡親が平成14年以降アルツハイマー型認知症と診断され、その後も症状が進んで、平成21年12月5日(本件施設の最終受診日)を最後に、本件手帳(乙9)に書き残すことができなくなり、平成22年8月にM病院に入院した後はほぼ寝たきりとなるなど、本件縁組時点では亡親の認知症が進行していた旨主張する。
イ しかし、亡親は、平成14年10月(74歳)にアルツハイマー型認知症と診断されたが、その程度は軽度に止まっており、平成21年12月5日(最終受診日)までの約7年間、本件施設の治療内容(投薬と経過観察)に大きな変化はなかった(認定事実(2)ア)。しかも、本件手帳の記載をみると、上記の間、亡親が、親戚付き合いをし、趣味を楽しみ、自ら財産の管理をするなど(年金の受領、定期預金の更新等)、年齢相応に自立した日常生活を送っていたことが窺われる(同イ)。確かに、亡親は、平成22年8月にM病院に入院してから危篤状態になるまでの間は(同年10月19日)、徐々に症状が悪化していたけれども、概ね適切な受け答えができていたということができる。
これによると、亡親の精神障害の態様は、本件記入等や本件縁組がされた時点(同月14日から15日)において、控訴人と養子縁組することが理解できず、これを承諾する意思を表明し得ない程度にまで進んでいたということはできない。被控訴人の上記主張は採用できない。
(2) 次に、本件縁組の目的や経緯についてみる。
ア(ア) 亡親は、亡B子の相続税申告(平成18年)以降、丁野税理士に対し、自らあるいはC男を通じて、亡親死亡による相続税について繰り返し相談していた。その際、丁野税理士から、生命保険契約や養子縁組をすれば節税になる、養子の人数は1人で十分であるなどと助言され、控訴人が柔道整復師として開業するのであれば、亡親を経営者、控訴人を従業員とし、減価償却資産を亡親名義で購入することを提案され、平成22年10月頃には、養子縁組の手続について説明された(認定事実(3)イ)。
このような経過によれば、亡親が3人の実子のいる状況の下で養子縁組をした目的は、自らの相続時の節税にあったということができる。
(イ) そして、亡親が養子にしたのは控訴人であったが、これは、控訴人が亡親と長く深い交流を続けてきたからであると考えられる。控訴人(昭和55年生)は、就職するまでは自宅で亡親と生活し、亡親は、控訴人の就職前後を通じて、同人の選手活動を応援し続けた。控訴人が自宅に戻ってから亡親が入院するまでの約4年間(平成18年から平成22年)、控訴人と亡親は、同じ部屋で寝起きし、一緒に出かけ、亡親の所用(貯金の払戻し等)に控訴人が同伴した。しかも、亡親は、平成17年6月(亡B子の生前)、高額(基本保険金4000万円)かつ後継年金受取人を控訴人とする本件生命保険を締結したが、亡親が死亡保険金(本件生命保険を含む。)の受取人と指定していたのは、C男(長男)のほかは控訴人のみであった。その後、亡親は平成22年8月25日にM病院に入院(個室)したが、付添いをしていたのはもっぱら控訴人であった(認定事実(1))。
このように、控訴人と亡親との関係は、約30年間(昭和55年から平成22年)の長きにわたる極めて緊密なものであったのである。
(ウ) 上記(ア)、(イ)の事情を踏まえると、亡親が控訴人と養子緑組した(本件縁組)のは、相続税の節税という目的からであり、控訴人と緊密な関係にあったためであるということができる。このように、亡親が本件縁組をすることについては合理的な目的がある。また、これに至る経緯にも不自然な点は見当たらない。
イ(ア) 被控訴人は、亡親と控訴人との関係が本件縁組をするほどに強固なものとはいえず、本件生命保険が亡親の意思能力のない状況でされたものである旨主張し、これに沿うかのような証拠(甲8〔控訴人のブログ〕)を提出する。
しかし、亡親と控訴人との関係が本件縁組をするほどに強固なものであったことは、前記ア(イ)説示のとおりであるし、本件生命保険の契約時点(平成17年6月)で亡親に意思能力がないといえないことは、前記(1)説示のとおりである、控訴人が亡親の死亡から1年経過しない時期(平成23年7月と8月)に知人等と国内旅行に出かけたこと(甲8)は、亡親と控訴人の関係が緊密であったこと(上記ア(イ))を動かす事情に当たらない。被控訴人の上記主張は採用できない。
(イ) 被控訴人は、丁野税理士の助言を受けてまで本件縁組をしなければならない状況にはなく、これに関する丁野税理士の陳述書(乙8)は信用できない旨主張する。
しかし、亡親が丁野税理士に相続税の相談をした時期が亡B子の相続税申告を終えた後であることからしても、上記相談は亡親死亡後の相続税負担を軽減することを意図していたと考えられる。これに関する丁野税理士の陳述(乙8)は、相続税の負担軽減に限定されており、その信用性を疑わせるような不合理な点は見当たらない。被控訴人の上記主張は採用できない。
(3) 以上検討したとおり、亡親の精神障害の態様は、本件縁組当時、控訴人と養子縁組することが理解できず、これを承諾する意思を表明し得ない程度にまで進んでいたとはいえないし、亡親が本件縁組をすることについては合理的な目的があり、かつ、そこに至る経緯にも不自然な点は全く見当たらない。
したがって、本件縁組(本件記入等)は、亡親の意思に基づいてされたものであるから有効というべきである。


