A 参考となる裁判例として、以下の裁判例が存します。賃貸借契約ではないと判断されれば、借地借家法の適用がないため、更新拒絶や解約に正当事由及び立退料が不要となります。
①東京地方裁判所令和3年11月30日判決は、以下のように判示し、いわゆる“マスターリース契約”とされた契約が実質において賃貸借契約ではなく業務委託契約であると判断しました。
「まず,本件各マスターリース契約では,「空室保証(家賃保証)」が行われない「集金代行方式」,すなわち,本件各建物に入居者がいない場合に被告の原告に対する金銭の支払義務が発生しない方式が採用されている。このことからすれば,被告が原告に対して支払う金銭は,被告による本件各建物の使用の対価ではなく,入居者による本件各建物の使用の対価としての性質が強いものと考えざるを得ない。
また,本件各マスターリース契約においては,被告が入居者から支払を受ける礼金や更新料を被告が全額収受せず,その50%を原告に支払うこととされ,入居者との間に法的紛争が生じた際の対応に要する弁護士費用を原告が負担することとされている。
これらは,被告と入居者との間の新規契約や契約更新に伴う利益の相当部分や法的紛争リスクが入居者と直接的な契約関係にない原告に帰属することを規定したものであり,被告が本件各マスターリース契約上原告から独立した賃借人の地位にないことを示唆するものであると言い得る。
以上によれば,本件各マスターリース契約1条冒頭に「賃借」や「転貸」との文言が用いられているとしても,本件各マスターリース契約が,被告が原告から独立した賃借人としての立場で本件各建物を使用収益し,その対価を支払う内容の契約であったと解することは困難であり,むしろ,原告が被告に対し2条に定める業務を委託する趣旨の契約であったと解するのが相当である。」
②東京地方裁判所平成26年5月29日判決は、
いわゆるサブリース契約(サブリース事業におけるマスターリース契約のことを言っていると思われます。)とされた契約が実質的に賃貸借契約ではなく、委任契約と判断された事例です。
判旨
「本件サブリース契約の契約内容をみると、賃料の定めについては、収納賃料等から管理料(建物管理委託料)、管理組合へ支払う管理費・修繕積立金を差し引いた残額の60%を平成21年3月分から支払うこととされており、原告は空室のリスクを負わず、転貸による収納賃料がない物件に関しては賃料を支払わなくてもよいとされている。敷金についても、Aから原告に移管しないことを定めている(第5条第1項)。更に、本件サブリース契約の終了については、借地借家法28条(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)とは異なり、3か月の猶予期間を置けば賃貸人であるはずのAからも一方的に解除できると定められ(第9条)、更に、借地借家法31条(建物賃貸借の対抗力)とは異なり、競売・任意売却等で所有権移転された貸室については、その都度、本件サブリース契約が当然に消滅することが定められている(第15条)。
上記契約内容から実質的にみれば、本件サブリース契約は、借地借家法の適用を受ける「建物の賃貸借」ではないこと、すなわちAが原告に本件建物を含む目的物件を賃貸する契約ではないことが認められる。契約の実質的な性質は、建物の賃貸借ではなく、Aが原告に対し、これら物件の建物の管理と賃料の収受を委託し、原告が、これにより賃料収受権を与えられるとともに、収受した賃料から委託報酬として管理委託料の支払を受けることを合意したものであって、建物管理及び賃料収受の委託を内容とする委任契約であると評価することができる。
(2)本件サブリース契約の解除
本件サブリース契約は、このように委任契約の実質を有していることから、本件サブリース契約の解除について借地借家法27条、28条の適用はなく、民法651条1項及び本件サブリース契約第9条に基づき、3か月の猶予期間を置けば、何らの理由もなくAの側から一方的に解除することができる。Aは、平成21年9月1日頃、原告に対し、本件サブリース契約を解除する旨の通知をしているから、通知書に記載した理由の当否にかかわらず、通知が原告に到達してから3か月を経過した時には本件サブリース契約が終了する。遅くとも平成21年9月中には解除通知が原告に到達していると考えられるから、それから3か月が経過した平成21年12月末日までには、本件サブリース契約は、終了している。」
東京地方裁判所令和6年3月14日判決
集金代行方式のマスターリース契約が賃貸借契約ではないとされた事例
(判旨抜粋)
当裁判所は、原告と被告との間で締結されている契約は原告が主張するとおりの委任契約(本件契約)であると認められ、原告の請求はいずれも理由があるから認容すべきものと判断する。その理由の詳細については以下のとおりである。
1 原告と被告との間で本件建物に関し作成されている契約書(甲2。以下「本件契約書」という。)は、その題名を「マスターリース契約書」とし、前文及び1条には被告が本件建物を原告から賃借し、任意の第三者に転貸する旨の記載がある。
しかしながら、他方、本件契約書3条以下においては、〈1〉「賃貸管理業務」として、(a)入居者の募集・審査、入居者との賃貸借契約の締結、(b)入居者との賃貸借契約の解約時における鍵の受領、クリーニング、補修の手配等、(c)賃料の回収、入金管理及び送金などを定め(3条)、〈2〉このような賃貸管理等に関する手数料を月額4000円(別途消費税)とし、被告において入居者の賃料を送金する際に当月分の手数料を賃料から差し引いて受領するものと定めている(4条)。これらの定めは、本件契約の本質に関わる部分であるところ、被告が本件建物の所有者である原告に代わって同建物の賃貸管理業務を行い、その業務に対する対価として手数料の支払を受けるというものにほかならず、被告が主張するような、被告が原告から本件建物を賃借して第三者に転貸するという契約とは相容れないものといわざるを得ない。
そうすると、原告と被告との間で締結されている契約は、被告に本件建物の賃貸管理を委任する旨の委任契約(本件契約)であると解するのが相当であり、賃貸借契約であると解することはできないから、借地借家法の規定は適用されない。
2 したがって、本件契約は、本件契約書8条1項の規定に従い、原告において6か月前までに被告に対し書面で通知することにより、解約することができる。

