A 裁判所は特別な関係の解消について、継続賃料ではなく、新規賃料の鑑定金額を織り交ぜる等して、考慮しているものがあります。
最高裁判所平成5年11月26日判決
経済的事情のみではなく、当事者間の個人的な事情の変化も賃料増額事由として考慮の対象となることを示した最高裁判例
(判旨抜粋)
借地法一二条一項の規定は、当初定められた土地の賃料額がその後の事情の変更により不相当となった場合に、公平の見地から、その是正のため当事者にその増額又は減額を請求することを認めるものである。したがって、右事情としては、右規定が明示する一般的な経済的事情にとどまらず、当事者間の個人的な事情であっても、当事者が当初の賃料額決定の際にこれを考慮し、賃料額決定の重要な要素となったものであれば、これを含むものと解するのが相当である。
東京地方裁判所令和6年3月7日判決
賃料増額請求事件において特別な関係性の解消を考慮した事例
夫婦関係を理由に低額な賃料としていたところ、相続によりかかる関係が解消したとして、差額配分法を重視し、①差額配分法、②直近合意賃料を基礎とする利回り法、③直近合意賃料を基礎とするスライド法、④当初賃料を基礎とする利回り法、⑤当初賃料を基礎とするスライド法を、①6:②1:③1:④0.5:⑤0.5の比率で採用した裁判所鑑定を合理的と判断した。
(事案の概要)
賃貸人(法人α):Aが株主かつ経営者(元々代表取締役であったが死亡前に後任を代表取締役としていた。)
賃借人(法人β):株主かつ代表取締役は、Aの妻B
従前賃料:月額150万円
Aが死亡⇒Aと前妻Cとの間の子Dが賃貸人である法人α株式を相続し、代表取締役に就任⇒賃料増額請求
認容賃料:月額545万7000円
(BはAの死亡後、再婚している。)
争点 賃料増額請求権の存否
(判旨抜粋)
借地借家法32条1項に基づく賃料増額請求の当否及び相当賃料額を判断するに当たっては、賃貸借契約の当事者が現実に合意した賃料のうち直近のもの(以下、この賃料を「直近合意賃料」という。)を基にして、同賃料が合意された日以降の同項所定の経済事情の変動等のほか、諸般の事情を総合的に考慮すべきである(最高裁平成20年2月29日第二小法廷判決・裁判集民事227号383頁参照)。
これを本件についてみると、前記2(3)で検討したとおり、原告と被告との間では、経営者及び株主が夫婦であるという密接な関係にあることを前提として、本件覚書において、月額150万円という低額の賃料を合意したものと認められる。そして、本件覚書の締結後に、Aが死亡し、別件判決によって原告代表者が原告の株主であることが確認され、原告代表者が新たに原告の代表取締役に就任したことにより、原告と被告の密接な関係は消滅したものというべきである。その上で、後記(2)のとおり、直近合意賃料を基準として算定した場合、純賃料が低額であり、純賃料利回りが非常に小さい利回りになることなどを踏まえると、直近合意賃料は不相当となったというべきであり、原告の賃料増額請求は認められる。
争点 相当賃料額
(判旨抜粋)
本件鑑定書は、本件覚書による月額150万円の賃料を直近合意賃料とした上で、差額配分法、利回り法及びスライド法を適用して継続賃料を算定しており、その鑑定手法は合理的なものである(なお、本件鑑定書では、本件覚書が締結された平成24年8月13日ではなく、本件覚書に基づき賃料が減額された同年9月1日を直近合意時点としているが、この差異が鑑定結果に影響を及ぼすものとは認められない。)。そして、鑑定の結果(補充鑑定書を含む。)によれば、前記(1)の事情を考慮した上で、敷金が1億9600万円に増額されていること(前記2(2))を前提とした場合の賃料増額請求時点での継続賃料は、月額545万7000円と認めるのが相当である。
これに対し、被告は、本件鑑定書の利回り法及びスライド法での算定について、直近合意賃料を基礎とするものだけではなく、当初賃料を基礎とするものを算定している点を問題としている。
しかし、本件鑑定書では、直近合意賃料を基準として算定した場合、純賃料(実質賃料-必要諸経費等)が148万5000円(補充鑑定書提出前の金額)と低額であり、純賃料利回りが約0.1%という非常に小さい利回りになること(本件鑑定書37頁)、また、利回り法及びスライド法のいずれも、前記(1)の貸主と借主の密接な関係が消滅したことを算定に反映させることが困難であること(本件鑑定書37頁、41~42頁)が指摘されている。そのような中で、利回り法及びスライド法を全く考慮しないという方法を取らず、当初賃料を基礎とした利回り法及びスライド法を併せて考慮することが不合理なものとはいえない(むしろ、上記の点を無視して、直近合意賃料を基礎とした利回り法及びスライド法での算定結果のみ考慮することの方が、不合理である。)。そして、本件鑑定書では、最終的に、①差額配分法を最も重視し、②次に直近合意賃料を基礎とする利回り法及び③直近合意賃料を基礎とするスライド法を重視し、④当初賃料を基礎とする利回り法及び⑤当初賃料を基礎とするスライド法は参考とするにとどめて継続賃料を算定していること(採用した比は、①6:②1:③1:④0.5:⑤0.5である。)も考慮すると、本件鑑定書の内容の合理性が否定されるものではない。
したがって、被告の上記主張は採用できない。
東京地方裁判所令和2年12月3日判決
建物賃貸借
従前賃料月額20万円
請求額月額58万2120円
認容額月額34万0400円
旧貸主の一人と賃借人の関係は、代表者と会社の関係であった。
(判旨抜粋)
適正賃料額の試算方法のうち,利回り法及びスライド法については,直近合意時の賃料額が当時の賃料相場と比較して不相当なものであった場合,試算額も価格時点の賃料相場と比較して不相当なものになるという欠点があるところ,本件は上記のとおり共同賃貸人の一人であるCとF,Bの人間関係やCが賃借人の代表者となったこと,共同賃貸人の無関心等を基礎にして,直近合意時の賃料額が当時の賃料相場に適合したものであるとは認められないものとされたのであるから,そのような手法を用いて適正賃料額を算出することは相当ではない。また,差額配分法については,上記のとおり正常実質賃料を40万8000円とする裁判所鑑定は信用できるものの,本件において正常実質賃料と実際実質賃料の間に大きな差が生じているのは,上記のとおり,Cが自身とF,Bの人間関係や自身が賃借人の代表者となったこと,共同賃貸人の無関心等を基礎にして賃料相場の変化と適合しない賃料減額を行ったことがその大きな原因であるから,上記差額のうち賃貸人に配分する部分は,このような特殊な要因のみられない通常の場合と比較してより大きくするのが相当である(このことはたとえ原告が賃料を20万円(消費税込み)とする買受人に対抗できる賃借権の存在を認識しつつ本件建物を競落したとしても同様である。)。他方,上記(2)カないしクで認定したところによれば,本件建物の賃貸借契約締結以降,本件建物の賃料を当初の額から減額することの合理性が全くなかったわけではないということもできる。これらに鑑みると,正常実質賃料と月額実際実質賃料の差額部分である22万2000円を,賃貸人7,賃借人3の割合で配分するのが相当であると認められる。その結果,本件における平成30年4月1日時点における適正賃料の月額は,実際実質賃料18万6000円に差額部分の7割である15万5400円を加えた34万1400円から敷金の運用益1000円を控除した34万0400円となる。
東京地方裁判所令和2年1月29日判決
地上権設定契約
旧貸主と借主の関係は、親族関係及び親族の経営する会社の関係
被告個人:10階部分を賃借
被告会社(被告個人が代表取締役):地下2階から2階部分を賃借
従前賃料:被告個人月額15万7567円、被告会社月額160万4931円
認容賃料:被告個人月額20万7782円、被告会社月額211万6393円
(判旨抜粋)
前記(2)によれば,本件地代増額請求がされた平成29年7月29日時点における本件各土地の継続地代相当額は,月額合計691万8000円(うち被告会社の負担額月額211万6393円,うち被告Y1の負担額月額20万7782円)と認められ,旧地代額(月額合計524万6150円)からの増額率は,約31.9パーセントと相当程度の割合に達していること,前記(2)のとおり,直近合意時点から価格時点までに件各土地〔編注:原文ママ「本件各土地」と思われる。〕の価格が相当程度上昇しており,本件各土地の旧地代が低額に設定・維持されていた理由であった当事者間の親族関係も失われたこと等の諸般の事情を総合的に考慮すると,本件各土地の旧地代は不相当となったと認めるのが相当である。
東京地方裁判所令和2年7月9日判決
建物賃貸借
旧賃貸人が大手インフラ企業で、遊休不動産を大幅に低額な賃料で賃貸していた事案
新規賃料の鑑定結果と現行賃料の間を相当賃料と認めた
従前賃料130万円
相当な新規支払賃料額283万1100円
認容した賃料額205万8407円
(判旨抜粋)
(4)ア 信用性の非常に高いC鑑定によれば,平成26年1月1日時点における本件賃料について,相当な新規支払賃料額は,1か月283万1100円(消費税等を除く。)であると認められる。
イ 本件賃貸借契約は,平成16年6月1日の締結当時,賃料を1か月130万円(消費税等を除く。)とするものであったところ,同締結時点から平成26年1月1日までの間に,借地借家法32条1項所定の一般的な経済的事情が,著しく変化したことを認めるに足りる的確な証拠はない。そうすると,平成16年6月1日時点における本件賃料について,相当な新規支払賃料額は,1か月283万1100円(消費税等を除く。)と大きく違わないものであったとみられるから,本件賃貸借契約の締結当初においては,客観的に適正な賃料額を大幅に下回る低額な賃料が約定されたものと認められる。
ウ このような約定がされた原因については,前記認定事実に照らすと,東電という電力業界最大手の大企業が,平成16年6月1日当時,遊休不動産を活用して賃料収入から利益を得ることにさしたる関心を示さず,「ケンタッキー・フライド・チキン」等の著名なブランドを保有する旧KFC社に対し,10年という比較的長期間,本件建物を賃借し,確実に賃料が支払われることで事足りると判断したことが大きいと解され,このような東電の属人的事情は,賃料額決定の重要な要素となったものと認められる。そして,旧KFC社は,東電の内部的事情を知っていなくとも,本件建物の賃料が,近隣の相場に照らすと1か月300万円程度になることを知りながら(証人D〔調書6頁〕),1か月130万円(消費税等を除く。)の賃料額を提案して,同金額で本件賃貸借契約を締結したのであるから,東電の属人的事情によって客観的に適正な賃料額を大幅に下回る低額な賃料となっていることを,賃料額決定の際に考慮していたものと認められる。
エ 他方,旧KFC社が本件店舗において電化厨房を採用することは,東電において,当初の提示額である1か月160万円(消費税等を除く。)を割り引く材料になったものにすぎないというべきであるし,東電が本件建物の引渡前に耐震補強工事等を行ったことも,本件建物が新築から約45年を経過したものであったことからすれば,賃貸人として使用収益させる義務を履行したものにすぎないといえるから,これらの事情は,賃料額決定の重要な要素となったものとは認められない。
オ 東電は,平成22年10月1日に旧KFC社と現行賃料で合意した後,遊休不動産を処分する必要に迫られて本件不動産を売却し,原告は,平成25年3月25日,これを買い受けて,本件賃貸借契約上の賃貸人たる地位を承継した。この賃貸人たる地位の移転により,本件賃貸借契約においては,客観的に適正な賃料額を大幅に下回る低額な賃料が約定された特別な関係が消滅したものというべきである。
そして,本件において,①原告が将来の賃料収入と引換えに東電から本件不動産の代金の減額を受けたなどの事情は認められず,②東電が,自ら又はその承継人によって後に賃料増額請求を行うことを予定しながら,あえて安価な賃料を設定して,賃料増額の予定を告げないまま,賃借人を誘引したなどの事情も認められない。
そうすると,前記の特別な関係の消滅は,本件賃料の増額事由に当たるものというべきである。
(6) 本件賃料に関し,前記(4)で認定説示した特別な関係の消滅以外に,現行賃料の合意後,賃料の増額を認めるべき一般的な経済的事情は認められないから,相当な本件賃料額,前記の特別な関係の消滅という事情を継続賃料に反映させることによって定まるものと解するのが相当である。
前記(4)アのとおり,平成26年1月1日時点において,本件建物を新たに賃借した場合,1か月283万1100円(消費税等を除く。)が相当な新規支払賃料額となるところ,継続賃料である本件賃料を,直ちにこの水準にまで増額させることは,相当ではなく,賃料の増額は,段階的に行うことが相当である。
上記283万1100円と現行賃料額128万5715円との差額は,154万5385円となるところ,賃貸借契約当事者の公平を考慮し,その半額に当たる77万2692円を現行賃料額に加算した205万8407円を,相当な1か月の本件賃料額(消費税等を除く。)と認める。
東京地方裁判所令和2年2月21日判決
東京地方裁判所平成30年6月25日判決
東京地方裁判所平成29年3月27日判決
東京地方裁判所平成27年3月18日判決
東京地方裁判所平成26年3月7日判決
東京地方裁判所平成22年12月2日判決
東京地方裁判所平成22年2月9日判決
東京地方裁判所平成21年10月28日判決
東京地方裁判所平成19年2月1日判決
東京地方裁判所平成15年5月26日判決
東京高等裁判所平成12年9月21日判決
東京高等裁判所平成18年11月30日判決
東京高等裁判所平成12年7月19日判決
東京高等裁判所昭和53年6月28日判決

