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辻田寛人
弁護士
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Q 履行着手前でも一定の期限経過後は手付解除ができないとする特約は有効ですか。

A 宅建業者を売主とする売買契約において、履行着手前でも一定の期限経過後は買主が手付解除ができないとする特約は無効とされた事例があります。非宅建業者同士又は非宅建業者に有利な特約の場合には有効とされる可能性があります。

名古屋高等裁判所平成13年3月29日判決
(原審:名古屋地方裁判所平成12年11月16日判決)
宅建業者を売主とする売買契約において、履行着手前でも一定の期限経過後は買主が手付解除ができないとする特約は無効とされた事例

(事案の概要)
本件手付解約条項 
「相手方が契約の履行に着手するまで、又は平成12年5月26日までは、この契約を解除できる。」
 ①「相手方が契約の履行に着手するまで」と②「平成12年5月26日まで」のいずれか早い時期が来たら手付解除ができなくなるのか(甲解釈)、それとも、いずれか遅い時期まで手付解除ができるのか(乙解釈)、本件手付解約条項の解釈が問題となった。
 ⇒結論:買主(非宅建業者)の有利に考えて、乙解釈によることとされた。

(判旨抜粋)
(1) 本件手付解除条項は、民法五五七条一項の規定と同様に「相手方が契約の履行に着手するまで」に加えて、「又は、平成一二年五月二六日までは」手付解除ができると定めている。
 ところで、民法五五七条一項の趣旨は、当事者の一方が既に履行に着手したときは、その当事者は、履行の着手に必要な費用を支出しただけでなく、契約の履行に多くの期待を寄せていたわけであるから、このような段階において、相手方から解除されたならば、履行に着手した当事者は不測の損害を蒙ることになるため、このように履行に着手した当事者が不測の損害を蒙ることを防止することにあるとされている(最高裁大法廷昭和四〇年一一月二四日判決、民集一九巻八号二〇一九頁)。
 他方、同条項の趣旨がこのようなものであるとしても、同条項は任意規定であり、当事者がこれと異なり、履行の着手の前後を問わず手付損倍戻しにより契約を解除できる旨の特約をすることは何ら妨げられていない
(2) そこで、手付解除の可能な期間を定めたものであることの明らかな本件手付解除条項の解釈について検討するに、まず、被控訴人主張のように、「履行の着手まで」「又は」「平成一二年五月二六日(以下「五月二六日」と略す)まで」のいずれか早い時期までであれは手付解除は可能であるとする解釈(以下「甲解釈」という)と、控訴人主張のように、「履行の着手まで」「又は」「五月二六日まで」のいずれかの時期まで手付解除は可能であるとする解釈(以下「乙解釈」という)とが一応考えられる。
① そして、本件のように履行の着手後に五月二六日が到来する場合、甲解釈によると履行の着手後は手付け解除ができないのに対して、乙解釈によると履行の着手後も五月二六日まで手付け解除ができることになり、一方、履行の着手前に五月二六日が到来する場合、甲解釈によると五月二六日経過後は手付け解除ができないのに対して、乙解釈によると五月二六日経過後も履行の着手まで手付け解除ができることとなる。
② そうすると、甲解釈によると、履行の着手後に五月二六日が到来する場合には民法五五七条一項と同様であり、本件手付解除条項で「五月二六日」を付加したことに何ら特別の意義はなく、履行の着手前に五月二六日が到来する場合に、履行の着手前でも手付解除ができなくなるという意味で同条項の適用を排除する特約としての意義を有することとなる。他方、乙解釈によると、甲解釈とは逆に履行の着手後に五月二六日が到来する場合に同条項の適用を排除する特約としての意義を有することとなる。
③ ところで、被控訴人は宅地建物取引業者(以下「宅建業者」という。)であり(《証拠略》)〈編注・以下証拠の表示は省略ないし割愛〉、宅建業者自らが売主である場合、売主の履行の着手前でも買主の手付解除を制限する、つまり民法五五七条一項の適用を排除するような特約は、その限度で無効である(宅地建物取引業法三九条二、三項参照)から、甲解釈によると、履行の着手前に五月二六日が到来する場合に同条項の適用を排除する特約としての意義を有する本件手付解除条項は、売主である被控訴人からの手付解除を制限する特約としては有効であるが、買主である控訴人からの手付解除を制限する特約としては無効であるということとなり、特約としての効力が制限される結果を招き、民法五五七条一項とは別にわざわざ「五月二六日」を付加した意味は半減することとなる。
④ 本件手付解除条項の解釈に当たっては、当事者の真意にかかわらず、解約手付に関する民法及び宅地建物取引業法の趣旨を前提に当事者の合理的意思解釈としてなるべく有効・可能なように解釈すべきであるところ、甲解釈は、当事者が手付解除が可能な期間として「五月二六日」を付加した意義を一部無にすることとなる一方、乙解釈は、その意義を理由あらしめるとともに宅地建物取引業法三九条三項の趣旨である消費者の保護に資するものである。
⑤ また、一般に、履行の着手の意義について特別の知識を持たない通常人にとって、「履行の着手まで」「又は」「五月二六日まで」手付解除ができるという本件手付解除条項を、履行の着手の前後にかかわらず「五月二六日まで」は手付解除ができると理解することは至極当然であって、看護婦をしている控訴人が、本件手付解除条項をこのように理解して本件手付解除に及んだことも肯けるところである。
⑥ 乙解釈によると、履行の着手後の手付解除により相手方に一定の損害を蒙らせる結果となることは否定できず、手付解除の行使の期間には自ずから制限があるものではあるが、本件において手付解除が可能な期間である「五月二六日」は本件売買契約締結日から二〇日余りの期間であり、履行の終了するまで手付解除ができるというがごとき無制限な手付解除を認める特約ではなく、本件手付解除により被控訴人が損害を蒙ることがあったとしても、自ら前記のような手付解除の期間について「五月二六日まで」と付加した以上、不測の損害とはいいがたい。
(3) 以上の検討によると、本件手付解除条項の解釈については、民法五五七条一項の場合に加えて履行の着手後も手付解除ができる特約としての意義を有するとする乙解釈をもって相当とすべきである。
 この点に関し、被控訴人は、本件手付解除条項は社団法人愛知県宅地建物取引業協会が編集発行している「契約書式ハンドブック(改訂版)」の不動産売買契約書雛形の手付解除条項をそのまま引用したものであるところ、「契約書式ハンドブック(改訂版)」も同じ甲解釈をとっている旨主張し、《証拠略》は同主張に沿うものである。しかしながら、「契約書式ハンドブック(改訂版)」が被控訴人と同様に甲解釈をとり、被控訴人が甲解釈のもとに本件手付解除条項を採用したという被控訴人の真意はともかくとして、甲解釈によると本件手付解除条項は一部無効な特約をした結果となること、一般に土地売買取引に入る通常人が、本件手付解除条項について被控訴人主張のように理解し解釈するものといえないことは前記のとおりである。また、被控訴人は本件売買契約締結日のわずか二日後には履行に着手して、控訴人に対して、その手付解除は認められないとして、本件売買契約の違約金条項に基づき売買代金額の二〇%である三七六万円の違約金を請求するというものであり、かえって控訴人のような甲解釈こそ、被控訴人による本件手付解除条項による手付解除の利益を実質的に奪うものであって、採用することはできない

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