A 宅建業者は、宅建業法35条1項の重説事項について書面を交付して説明を行い、宅建業法37条書面を交付する義務があります。
この他、宅建業法47条1項1号二は、宅建業者の禁止事項として、「イからハまでに掲げるもののほか、宅地若しくは建物の所在、規模、形質、現在若しくは将来の利用の制限、環境、交通等の利便、代金、借賃等の対価の額若しくは支払方法その他の取引条件又は当該宅地建物取引業者若しくは取引の関係者の資力若しくは信用に関する事項であつて、宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの」について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為を禁止します。したがって、同規定からも説明義務が発生します。
その他、宅建業法31条の信義誠実義務、民法656条・644条の善管注意義務が説明義務の発生根拠としても機能し得ます。そうすると、宅建業法35条及び37条、47条に列挙されている事項よりも広範に説明義務が発生する可能性があることとなります。
グラデーションとしては次のように頭の整理をすることが考えられます。
①宅建業法35条、37条の事項…原則として説明義務あり
②宅建業法47条1項1号二の事項…相手方の判断に重要な影響を及ぼすものについて説明義務あり
③その他の事項…特に尋ねられた事項や取引の目的に照らして重要な事項等、具体的な状況のもとで説明義務が発生する場合がある
宅建業法上、調査義務を明記した規定はありません。しかし、説明義務の前提として調査義務が発生する場合があるとされています。重説事項については原則として調査義務が存することについては争いがないと思われます。宅建業法47条1項1号二の事項その他の事項については、説明義務の有無によって調査義務が直ちに発生するものではなく、具体的な事情のもと調査義務が発生したと判断されるものがあるのが裁判例の傾向であると存じます。宅建業者は建築設計や土壌汚染等に関する専門家ではないため、能力的な制約も存すると存じます。
以下、裁判例をご紹介します。
東京地方裁判所昭和40年5月27日判決(説明義務)
現状有姿売買であっても、建蔽率の不告知及び緑地地域における一割地区に該当する旨の不告知について、仲介業者の説明義務違反が認められた事例
【事案の概要】
土地建物の売買、仲介業者による仲介。建ぺい率の告知をしていなかった。
売買契約締結後、本件土地が「緑地地域」に属し、「一割地区」(最低10%の緑化が求められる。)に該当することが判明した。
売買契約において現状有姿売買であることが定められていたところ、仲介業者の説明義務違反があったかが争われた。
【判旨】
建蔽率の不告知について
建蔽率は重説事項であるため原則として告知義務があるところ、告知不要の場合に該当するかが争われた。
(判旨抜粋)
なるほど一般に宅地を更地で売買する場合には、買主が地上に建物を建築することを前提とするから、建蔽率の如何は買主にとつて重大な問題であり、これに反し地上建物を利用するために土地、建物を現状有姿のままで買受ける場合には建蔽率は特に問題とならないことはいかにも被告のいうとおりであるが、証人○の証言及び原告本人尋問の結果に口頭弁論の全趣旨を参酌すれば、「原告は本件土地上にアパート兼住宅を建築することを目的として本件土地を買受けようとしたものであり、地上建物たる本件建物は年数古く利用価値なきものとして取毀ち撤去すべきものと考えていた。」ことが認められ、かかる目的を有する者が建蔽率を問題とせずして土地を買受ける理なく一方被告は宅地建物取引業者であるから業者の常識として取引折衝の間に這般の事情を察知し得ないはずはなく、原告が特に地上建物利用の意思を表明したとは到底認め難い本件にあつては、これを被告のいう建蔽率告知不要の場合に該当するものということはできない。
「緑地地域」及び「一割地区」について
裁判所は、過失による不法行為として責任を肯定した。
(判旨抜粋)
本件のような場合、宅地、建物取引業者が仲介依頼者に対し、売買目的物件が緑地地域に属し、しかも「一割地区」に該当することを告知しなかつたことは、故意ならずとするも、少くとも業務上の注意義務を怠つたものとして過失による不法行為上の責任を免れ得ないものというべきである。もつとも宅地、建物取引業法はその第一八条において、業者がその業務に関し相手方又は依頼者に対し、重要な事項について、故意に事実を告げず、又は不実の事実を告げる行為を禁止しているのみで、業者の過失に言及してはいないが、右第一八条は同法第二五条の刑事罰の前提要件を規定したにとどまり、業者の過失による不法行為上の責任を否定するものではない。
損害額としては現実に被った損害として手付金30万円分が認められた。
東京地方裁判所昭和59年12月26日判決(調査義務・説明義務)
仲介業者の宅地造成に関する規制等の調査義務違反を認めた事例
【事案の概要】
建売住宅用地とする目的で土地の売買契約を締結
建築基準法の接道義務を満たしていなかった。また、宅地造成について町長の承認を受けることができなかった。
買主は、仲介業者(法人)及びその代表者に対し、接道義務を満たしたか否かの調査義務違反、宅地造成についての説明義務違反を主張し、1400万円の損害賠償を請求した。
(判旨抜粋)
宅地建物取引業者には、宅建業法により不動産取引の仲介にあたつて重要事項の説明義務が課されているほか、不動産仲介契約は準委任契約と解すべきであるから、受任者としての善良な管理者の注意義務も課されており、右説明義務の前提として、あるいは右善良な管理者の注意義務の内容として当該不動産仲介契約の具体的内容に応じた調査義務が課せられているものと解するのが相当である。
本件の場合は、前記のとおり、仲介契約の目的が、速やかに建築確認を得ることのできる建売住宅用地としての売買である以上、被告会社は、本件土地が、右目的に適合する条件を備えているかどうかという点、すなわち本件においては、接道義務の問題、指導要綱に規定された行政指導の問題につき調査及び説明義務を負うものと言うべきである。
……以上によれば、被告会社は、本件仲介に際し仲介業者としての調査義務を尽くしたと言うことはできない。
もっとも、本判決は、不動産仲介業者に調査義務の懈怠を認めたが、建築確認を得られなかったのは、買主があえて7区画に宅地造成したことが原因であり買主の自招行為によるものであるとし、不動産仲介業者の責任を否定した。
神戸地方裁判所平成11年7月30日判決(調査義務)
中古住宅の屋根裏に多数のコウモリが生息していた事案について、瑕疵担保責任は認めたものの仲介業者の調査義務違反を否定した事例
【事案の概要】
土地付中古住宅の売買 売主側仲介と買主側仲介による媒介
売買後、多数のコウモリが屋根裏に住み着いており対策工事が必要になった。
買主は、売主に不法行為責任、瑕疵担保責任、債務不履行責任を追及
買主は、買主仲介に債務不履行責任を追及
買主は、売主仲介に不法行為責任を追及
【判旨】
(売主への請求)
売主の債務不履行については特定物売買であることを理由に否定
売主の瑕疵担保責任は肯定。不法行為責任は瑕疵担保責任と請求権競合の関係にあるので判断せず。
(判旨抜粋)
ところで、住居用建物は、人がそこで起居することを目的とするものであり、人が生活する建物については、一定の生物が棲息することは通常不可避であるし、生物が棲息したからといって当然にそこでの起居に支障を来す訳ではない。しかしながら、住居は、単に雨露をしのげればよいというものではなく、休息や団欒など人間らしい生活を送るための基本となる場としての側面があり、かつ、それが住居用建物の価値の重要な部分を占めているといえる。その意味で、その建物としてのグレードや価格に応じた程度に快適に(清潔さ、美観など)起居することができるということもその備えるべき性状として考慮すべきである。
そして、その巣くった生物の特性や棲息する個体数によっては、一般人の立場からしても、通常甘受すべき限度を超え、そのグレードや価格に応じた快適さを欠き、そこでの起居自体に支障を来すこともあるから、そのような場合には、かかる生物の棲息自体が建物としての瑕疵となり得るというべきである。
(三) 本件建物は、被告○○が平成二年一一月ころに総額七千万円以上をかけて建築した注文住宅であり、本件売買契約当時でも、未だ築一〇年にも至っておらず、その代金も本件土地と合わせて三千万円を超えるものであったから、相応の快適さを有することもその性状として期待されていたといえる。しかも、原告らが、従前居住していた家で虫害に悩んだという引っ越しの動機は本件売買契約前に被告○○も承知しており、ムカデやゴキブリが屋根裏に巣くっていないかと尋ねられたのに対して、同被告はそのようなものは見たこともないと答えているのであるから、ムカデやゴキブリに類する一般人において嫌忌する生物が多数巣くっていないという意味での清潔さや快適さが本件建物の性状として合意されていたというべきである。
(四) すると、蝙蝠は、害獣とはいえないが、一般的には不気味なイメージでみられているといえ、先にみたように本件建物に巣くった蝙蝠の数は極めて多数であるため、その不気味さも弥増す上、それによる糞尿も夥しい量となり、本件建物の天井や柱を甚だしく汚損し不潔になったものであって、そのままでは、原告らにおいてはもとより、一般人の感覚でも、本件建物は右価格に見合う使用性(清潔さ・快適さ)を備えたものといえないことは明らかである。したがって、本件売買契約当時において既に多数の蝙蝠が天井裏等に巣くっていた本件建物は、右にみた意味で瑕疵があるといえ、かつ、その巣くっていた場所に照らして、右瑕疵は、取引上、一般に要求される注意をもってしては容易に発見できるものであったとはいえないから、「隠れたる」瑕疵であったといえる。
買主仲介に対する債務不履行責任について
(判旨抜粋)
被告○○が、不動産仲介業者として、委託者である原告らに対し、仲介の趣旨に則り、善良な管理者の注意をもって目的不動産の状況につき調査すべき義務を負うことは同被告もこれを争わないところであり、その内容として当該物件の権利の所在や制限物権・法令上の制限の有無等についてはこれを善良な管理者の注意をもって調査すべきことは当然である。しかしながら、人間の居住する住宅において一定の生物が棲息することは通常不可避であって、特段の保証がない限り、顧客においても(通常の居住に妨げない範囲では)一定の生物が目的物件に棲息していることは当然に予想し甘受すべきことであり、仲介業者としても、蝙蝠等が居住の妨げになるほど棲息しているかどうかを天井裏等まで確認調査すべき義務までは、それを疑うべき特段の事情がない限り負わないというべきである。
しかるところ、原告らは、右特段の事情として、本件売買契約前に本件建物軒下に白い布が張ってあったことを○○が現認し、その不自然さに気付いていたと主張するが、右認定したところによれば、○○は、本件売買契約書を取り交わした際に原告らと被告清水のやりとりから初めて右布の存在を知ったものと認められ、その折りの被告○○の説明もそれ自体明らかに不自然不合理というものではなく、右布の存在から当然に多数の蝙蝠が本件建物に棲息していることを疑うべきということはできず、また、○○が特にその不自然さに気付いていたとも証拠上窺われない。
したがって、被告○○に対する原告らの請求は、その余を判断するまでもなくいずれも理由がない。
売主仲介の不法行為責任について
(判旨抜粋)
原告らは、被告○○は、専門家たる不動産仲介業者として、みずからした仲介を信頼して取引をなすに至った者に対しても、信義誠実を旨とし、目的不動産の瑕疵、権利者の真偽等につき格段の注意を払い、もって、取引の過誤による不測の損害を生ぜしめないように配慮すべき業務上の一般的注意義務があり、本件売買契約前に廣瀬が本件建物軒下の白い布を現認し、その不自然さに気付いていながら、その調査を怠った過失があると主張する。
しかしながら、一般的に中古住宅においては、通常の居住の妨げにならない程度で一定の生物が棲息していることは売買当事者として当然予想し、特段の注文をしない限り受忍すべき事柄であってそれ自体直ちには建物の瑕疵とはいえないのであり、不動産仲介業者が、業務上、取引関係者に対して一般的注意義務を負うとしても、一見明らかにこれを疑うべき特段の事情のない限り、居住の妨げとなるほど多数の蝙蝠が棲息しているかどうかを確認するために天井裏等まで調査すべきとはいえない。そして、右布の存在から多数の蝙蝠が棲息していることが一見明らかであるとはおよそいえないし、○○が特にこれに気付いていたとも証拠上窺われないから、○○がこれを調査しなかったことに過失があるとはいえない。
したがって、原告らの被告○○に対する請求も、その余を判断するまでもなくいずれも理由がない。
名古屋地方裁判所昭和59年2月10日判決(説明義務)
ゴルフ用地の売買において鉄塔の建設が予定されていることを説明しなかったことについて仲介業者の説明義務違反が認められた事例
(判旨抜粋)
原告と○○の間の本件土地売買に関し、被告○、同○は原告から仲介を委託された宅地建物取引業者として、被告△は原告から仲介委託を受けない宅地建物取引業者として、三者共同して本件土地売買の仲介業務に従事したものであるところ、被告○、同○は昭和四七年五月一一日及び同月二一日の二回に亘り、被告△は同月二一日、いずれも原告代理人□から本件土地上に本件鉄塔の建設予定が存することを知らされたにもかかわらず、○○に対しては本件売買契約締結に至るまで右事実を告知しなかつた。
ところで、○○は、前記認定のとおり本件土地をゴルフ場用地として使用する目的で取得したものであるところ、土地収用法二〇条、同法三条一七号によれば、中電は、建設大臣又は愛知県知事による事業認定を得た場合には、土地収用法に基づき本件鉄塔の建設用地として本件土地内の土地の一部を収用することが可能であり、〈証拠〉によれば、中電は昭和四八年七月二七日右事業認定を受けた事実が認められる。そして〈証拠〉によると、本件鉄塔の建設予定としては、本件土地内の中央部に鉄塔が二基、端に一基建設され、本件土地上を縦断して右鉄塔により支持される特別高圧送電線が設けられること、右鉄塔の敷地として各々五〇〇ないし六〇〇平方メートルが必要とされ、更に右送電線下に幅員二二ないし二三メートルの土地が必要とされることが認められる。従つて本件土地につき右鉄塔建設用地取得のために土地収用法が適用された場合、○○としては本件土地をゴルフ場用地として利用するうえで少なからぬ負担を強いられるであろうことは容易に推認されるところである。
しかるに、被告らは、前記認定のとおり○○が本件土地をゴルフ場用地とする目的で取得するものであることを知りながら、前示のとおり同工業に対して本件土地上に本件鉄塔の建設予定が存することを告知しなかつたものであつて、右不告知が故意ではなかつたとしても、少くとも本件土地売買に関する仲介業務上の注意義務を怠つたものであり、原告に対する関係においても被告○、同○は前記仲介委託契約に基づく債務不履行責任、被告△は過失による不法行為責任を免れないものというべきである。なお宅地建物取引業法一八条は宅地建物取引業者がその業務に関し相手方又は依頼者に対し、重要な事項について故意に事実を告げず、又は不実の事実を告げる行為を禁止しているのみで、業者の過失に言及してはいないが、右法条は同法八〇条の刑事罰の前提要件を規定したにとどまり、業者の過失による不法行為責任を否定する趣旨のものではないと解される。
東京高等裁判所平成2年1月25日判決(説明義務)
土地売買に関し、売主業者に対し、行政指導による建築制限についての説明義務違反を認めた事例
【事案の概要】
土地売買契約 買主宅建業者 売主宅建業者 仲介業者による売買
三階建てのマンションを建築して分譲する計画で購入
重説には「河川改修計画あり(拡幅)」と記載
買主は仲介業者からの説明を受けて、遊歩道が造られる程度だろうと考え売買契約を締結
手付金2150万円を支払う。
しかし、区役所職員より、売買対象面積の3分の1が拡幅計画に含まれ、同部分に建築させない行政指導がなされており、これに反する建築確認申請は事実上確認を得るのが難しいとの説明がなされた。
買主は解除を行い、手付金の倍額の支払いを求め訴訟提起
【判旨】
(解除の可否について)
(判旨抜粋)
1.先に認定した第一審原告の本件土地の買受目的からすれば、本件建築規制の存在は、第一審原告が売買契約を締結するについて重大なかかわりを有する事柄であったというべきである。他方、右買受目的を承知していた第一審被告としては、本件建築規制の存在と内容を具体的に知り、関係図面も入手していたのであるから、売買契約の締結に当たり、右情報を買主である第一審原告側に説明することは極めて容易であったと認められる。しかるに、第一審被告側から第一審原告側に伝えられた情報は、前認定のように重要事項説明書の「補足資料参照の事」「一級河川改修計画有り(拡幅)」との記載のみであって、契約締結の際の重要な事項に関する情報の提供としては不十分なものであったといわなければならない。
2. もっとも、本件売買のように売主及び買主がともに宅建業者である場合には、買主にも業者としての専門的知見と調査が期待されるから、売主から買主に対して説明すべき情報の内容、程度等も一般の場合と全く同一であるとはいえない。もし買主である業者が右の期待される専門的知見を欠き又は調査を怠ったために、不十分な情報に誤導されて売買をするに至ったときは、買主もまた、自らの被った損害につき過失の責を負うべきことは後記説示のとおりである。
しかし、第一審被告は、売主として、本件建築規制について提供の容易な情報と資料を保有し、それが買主にとって重要なものであることを認識し得る職業的立場にあったことを考えると、本件においては、右の保有情報を正確かつ十分に買主に伝達することが円滑な取引のための第一歩であり、業者が買主であるがゆえに、前記の程度の情報提供で足りるとか、それ以上を要求することが取引上無理であるとは認められない。本件売買契約は、第一審原告の既得の誤った予備知識と第一審被告の提供した情報の不十分さとが競合して締結されるに至ったものと見るべきである。そして、第一審原告側に右の不十分な情報しか伝達されなかった経緯は、証拠上明らかでないけれども、第一審被告の責に帰し得ない事由によると認められない以上、第一審被告は、本件売買契約の締結につき、売主として要求される説明義務を十分尽くさなかった責任を免れないというべきである。本件建築規制が行政指導による事実上のものであるというだけで、右説明義務を免れ得るものではない。
3. また、第一審被告において、第一審原告が本件建築規制を知っていると信じ、又は本件建築規制の存在が三階建て共同住宅の建築上さして障害にならないはずであるとの判断を有していたとしても、前認定の経過に徴すれば、第一審原告の認識や判断がそのようなものであると信ずべき確実で客観的な根拠があったものとは認められない。本件売買契約締結の当日には、双方の当事者及び仲介人が同席しているのであるから、少なくとも、その席で第一審原告にその点を確かめてみる程度のことは、説明義務の一環として期待されて然るべきであったと考えられる。
4. 以上の説明義務は、第一審原告及び第一審被告に適用される宅地建物取引業法三一条、三五条の規定を引くまでもなく、売買契約における信義則から導かれる広義の契約上の付随義務の一種であり、第一審被告は右契約上の義務を履行しなかったというほかないから、第一審原告は、これを理由として本件売買契約を解除することができるものというべきである。そして、第一審原告が昭和六二年一月二〇日本件売買契約を解除したことは前示のとおりである。
5. 第一審被告は、右契約解除が権利の濫用であると主張するが、本件全証拠によっても右主張を認めることはできない。
(手付金倍額の請求について)
(判旨抜粋)
1.本件売買契約において、第一審被告の義務不履行により契約が解除されたときは、領収ずみの手付金の倍額を第一審原告に支払う旨約定されていること及び右領収ずみ手付金の倍額が四三〇〇万円であることは、前認定のとおりであり、この約定は、特段の事情のない本件においては、損害賠償額の予定と推定される。
2.しかるところ、前認定の事実によれば、第一審原告の○は、仲介人である□の担当者の「遊歩道の計画があるが、建築には心配がない」との言を鵜呑みにし(その具体的根拠を確認していない。)、その後に第一審被告側から「一級河川改修計画有り(拡幅)]との記載のある重要事項説明書を受領した際にも、業者としての知識・経験上、右不十分な記載に疑念を持ち、関係官庁の調査等を容易になし得たにもかかわらず、右記載を軽率に解釈して、信頼のおける調査を一切行わなかったばかりでなく、第一審被告側に対してその内容を問い合わせることすらしなかったものである。これは、専門業者たる第一審原告が本件土地で計画していた事業規模等から見て、買主として尽くすべき注意と慎重さを怠ったものであり、過失の責を免れないというべきである。
3. そこで、第一審原告の右過失を考慮し、前記手付金倍返しの約定の合理的意思解釈と公平の見地から、前記損害賠償予定額四三〇〇万円のうち、第一審被告が第一審原告に支払うべき賠償額は二一五〇万円をもって足ると認めるのが相当である。民法四二〇条一項後段の規定は、右のような減額までを禁じるものではないと解すべきである。
東京地方裁判所昭和56年7月15日判決(調査義務)
仲介業者は、賃借希望者の身元や職業等について疑問がない限り、調査義務は発生しないとされた事例
【事案の概要】
賃借希望者が本名ではない氏名を名乗り仲介業者に申し込み。出版関係の編集事務所として使用したいと告げる。仲介業者に交付された名刺には、「書籍取次・通信販売 東京図書企画 ○○(本名ではない氏名)」と記載されていた。
賃貸借契約締結。賃貸開始。
賃借人は過激派集団の委員長であった。
入居後、ビル1階出入口に見張り、入口や階段を封鎖
立退料350万円を支払って退去してもらう。ビルの使用ができず賃料収入を得られなかった期間について約1200万円の賃料収入を失った。
賃貸人は、仲介業者に対し、賃借人の身元や職業等に関する調査義務の懈怠等を理由に損害賠償請求
【判旨】
(調査義務)
(判旨抜粋)
まず、賃借希望者の身元、職業等の調査報告義務について考えるに、不動産賃貸の仲介者は、原則として賃借希望者自らの申し出た身元、職業等の事項を委任者である賃貸人に伝えるをもつて足り、右以上に右事項につき独自に調査し、賃貸人に報告する義務はないものと解され、このことは仲介者が宅地建物取引業法の適用を受ける仲介業者であつても同様であるが、仲介者は善良なる管理者の注意をもつて当事者間の媒介をする義務を負うものであるから(民法六四四条)、仲介業者としての通常の注意を払うことにより賃借希望者の申し出た事項に疑問があり、ひいては正常な賃貸借関係の形成を望み得ない事情の存することが窺われる場合には、その点につき適当な方法で自ら調査し、又は、その旨を委任者である賃貸人に伝えて注意を促す義務があるものと解すべきである。
これを本件事案についてみると、○○が原告と本件ビル八階の賃貸借契約を締結するに至つた経緯は、被告が○○から「○○」という氏名を告げられ、かつその賃借の目的が出版業を行うことにある旨示されたとの当事者間に争いのない事実並びに〈証拠〉によれば以下のとおりで為つたことが認められる。
……原告は、被告が当時警察から過激派集団の賃借希望者には注意を払い、ことに出版業を行う者には注意を要する旨警告されていたと主張するけれども、かかる事実を認めるに足りる証拠はなく、また一般通常人が、当時「○○」ないし「東京図書企画」という名称から直ちに○派を想起することができたことを認めるに足りる証拠もない。かえつて、〈証拠〉によれば、○○は一見おとなしそうな、落着いた印象を与える人物であり、○○及び○○は、ともに○○が○派の委員長であるなどという疑いを全く抱かなかつたことが認められるのであつて、結局、前記認定の○○との賃貸借契約までの経緯において、○○が○派の委員長であることを疑わせるような不自然なところは認められず、○○が○○の身元等について何らの調査をもしなかつたとしても、何ら仲介者としての注意義務を欠いたものとはいえず、原告の主張は理由がない。
(賃貸借契約後の告知義務)
(判旨抜粋)
2 次に、賃貸借契約が締結された後の仲介者の義務について考えるに、仲介者の義務は原則として仲介に係る契約が成立することにより終了するものではあるけれども、賃借人が入居する前に賃借人が過激派集団の幹部であることを仲介者において知り得たような場合には、目的物件が実力による対立抗争の舞台となり、ひいては本件のような入居後全館占拠という由々しい事態が発生することも充分に予想されるのであるから、仲介者は委託者である賃貸人にその者の入居を拒否して損害の発生を未然に防ぐ機会を与えるため、信義則上これを通知する義務があるものと解すべきである。
しかしながら、……被告が、○○ら○派が本件ビルに入居する前に○○が○派の委員長であることを知つていたことを認めるに足りる的確な証拠はない。従つて被告の通知の有無について判断するまでもなく原告の主張は理由がない。
東京地方裁判所平成6年7月25日判決(説明義務)
接道義務を満たさない土地の売買について、仲介業者及び売主業者の説明義務違反を認めた事例
【事案の概要】
前面路地を売買対象土地として説明して売却したところ、前面路地は他人物であり売買対象面積に含まれず、接道義務を満たしていなかったところ、買主が仲介業者及び売主業者に損害賠償請求をおこなった。
仲介業者の説明義務違反
(判旨抜粋)
(1) 仲介人被告○事務所の代表取締役である被告○○は、仲介人被告○事務所の担当者として、原告に本件土地の説明をなすにあたり、信義誠実を旨とし、予め本件土地の範囲やその接道状況等について十分に調査し、本件土地に本件赤色部分が含まれていないこと、したがって本件土地の公道に接する幅(間口)は一・二三メートルであること、本件土地と本件赤色部分とを一体としてみても本件路地状部分の最狭部分は約一・五七メートルないし約一・六五メートルにすぎないこと、したがって、本件土地のみを申請敷地とした場合はもちろんのこと、本件土地と本件九六八番四三の土地とを申請敷地としたとしても本件土地上に適法に建物を建てることはかなり困難であること、等の真実を原告に説明すべき業務上の注意義務があったのに(けだし、仲介人が会社組織である場合には、依頼者はその担当者個人に対して信頼をおくものだからである。)、これを怠り、原告に、本件土地の範囲が本件斜線部分と本件赤色部分とであり、したがってその公道に接する幅(間口)は一・八三メートルであること、本件路地状部分の最狭部分も一・八メートルであること、本件土地上に建物を適法に建てることは可能であること、等の誤った説明をして、原告をしてその旨誤信させ、その誤信に基づいて本件売買契約を締結させるに至らしめたものであるから、被告○○には右注意義務に違反する過失行為(不法行為)があったことは明らかであり、被告○○は、民法七〇九条により、本件売買契約の締結により原告が被った損害を賠償すべき義務がある。
(2) また、被告○事務所は、被告○○の右不法行為が被告○事務所の職務の執行につきなされたものであるから、民法四四条により、原告の被った損害を賠償すべき義務がある。
売主業者の説明義務違反
(判旨抜粋)
(1) 売主被告□の代表取締役であった被告□□は、たとえ、被告○事務所に本件土地の売却の仲介を依頼しており、本件土地に本件赤色部分が含まれていないことを示す地積測量図や公図の各写等を被告○事務所に交付していたとしても、本件土地はその公道に接する部分がわずかに一・二三メートルであり、本件土地のみを申請敷地とした場合には本件土地上に適法に建物を建てることはほとんど不可能であったのであるから、しかも、原告に交付された前記重要事項説明書にはその「敷地等と道路との関係」欄になんらの記載もなく、図面の添付もなく、前記△もなんら説明をしなかったのであるから、本件売買契約に立ち合った売主の担当者として、本件売買契約の締結に先立ち、右のような土地をあえて買おうとする原告に対して、果たしてその認識に誤りがないかどうかを自ら確認すべき注意義務があったものというべきである。
しかるに、被告□□は、これを怠り、前記認定のとおり、被告○○または被告○事務所から原告に対して、本件土地に本件赤色部分が含まれていないこと、したがって本件土地の公道に接する幅(間口)が一・二三メートルであること、本件土地のみを申請敷地とすれば本件土地上に建物を適法に建築することはほとんど不可能であるが、本件土地と本件九六八番四三の土地とを一体として申請敷地とすれば本件土地上に建物を適法に建築することは可能であろうこと、等は既に説明されているものと考え、本件売買契約締結の際に原告に対してなんら説明及び確認をしなかったのであるから、被告□□には右注意義務に違反した過失行為(不法行為)があったものといわざるを得ず、被告□□は、民法七○九条により、本件売買契約の締結により原告が被った損害を賠償すべき義務があるものというべきである。
(2) 被告□も、被告□□の右不法行為が被告□の職務の執行につきなされたものであるから、民法四四条により、原告の被った損害を賠償すべき義務がある。
損害について
(判旨抜粋)
(一) 鑑定人作成の不動産鑑定評価書によれば、本件土地が一・二三メートルの幅でしか公道に接しておらず本件路地状部分の最狭部分もその程度の幅でしかないとした場合、本件売買契約当時の本件土地の価格は一億三一三〇万円(更地価格の五○%)であったと認められる。
したがって、これによれば、本件売買契約の代金額二億四〇〇〇万円とその三パーセントにあたる仲介手数料七二〇万円との合計額から右一億三一三〇万円とその三パーセントにあたる三九三万九〇〇〇円との合計額を控除した残額一億一一九六万一〇○○円が原告の一応の損害と算出される。
(ニ) しかしながら、前記認定のとおり、(1)原告は、その自宅建物を建築するにあたり、その敷地を本件土地と本件九六八番四三の土地とする建築確認申請をし、右確認申請に対しては、本件九六八番四三の土地の現況が通路であったこと等から、適法に建築確認処分がなされており、現在、原告は右自宅建物に居住していること、(2)本件九六八番四三の土地は、その所有者△△の使用状況や周囲の状態からみて、単独で売却譲渡される可能性は少なく、原告においてその所有権ないし使用権を相当額で右△△から取得できる可能性が全くないわけではないこと、を考慮すると、たとえ、将来において本件赤色部分が通路としての現況を有しなくなった場合には現在の原告方建物が違法建築となり、その場合には新たに建物を適法に建て替えることがほとんど不可能であるとしても、なお、現在右(1)(2)の事情を本件損害額の算定にあたって考慮せざるを得ず、そうすると、原告の損害は前記一億一一九六万一〇〇〇円の約八〇パーセントにあたる九〇〇〇万円と認めるのが相当である。
東京高等裁判所昭和62年6月30日判決(調査義務)
土地売買において、接道義務を満たしていなかったため建築確認が得られなかったことについて、瑕疵担保責任が認められると共に、不動産業者である売主の過失による調査義務違反を認めた事例
【事案の概要】
売買対象土地が接している道路が位置指定を受けていない私道であったため、建築した建物について建築確認を得ることができなかった。
買主は、売主に対して瑕疵担保責任及び不法行為責任を追及し、建築確認を得ないまま建物を建築した建設業者に対して不法行為責任を追及した。
【判旨】
瑕疵担保責任について
(判旨抜粋)
本件売買の目的とされた本件土地は、道路位指定を受けていないため、同地上に適法な建物を建築することが許されないのであるが、本件土地周辺の状況、とりわけ本件土地に接して現況道路が存在していたこと、控訴人は本件土地を不動産業者である被控訴人○○から買受けたものであること等からして、道路位置の指定がないため、建築確認が得られないものであることを知らないで右買受けに及んだものであり、売主である被控訴人○○もまた造成業者から本件土地を買受けたこと及び現地の状況からして、同様にこのことを知らないで本件土地を控訴人に売渡したものであるから、本件土地につき、道路位置の指定がないため建築確認が得られないとの点は、仮に今後もこれらを受けられないことが確定的になったものではないとしても、目下それが絶望的である以上、本件売買の目的とされた本件土地につき隠れた瑕疵が存するものと認めるのが相当であり、右の瑕疵により控訴人は結局本件土地買受けの目的を達することができなかったものというべきである。したがって、控訴人は被控訴人○○に対し民法五七〇条、五六六条により、本件土地の売買契約を解除することができるものといわなければならない。
調査義務について
(判旨抜粋)
被控訴人○○は、本件土地を土地造成業者である○○株式会社から買受けたものであり、現地には現況道路が存在し、かつ、近くに一、二の建物がすでに建築されていたとしても、不動産の売買、仲介等の業務を行なう右被控訴人としては、本件土地の売買契約を結ぶに当って業者として当然本件土地附近の状況を事前によく調査し、本件土地上に建物が建築できるか否かについて、建築基準法上の問題点をも調査して置くべき義務があるところ、同被控訴人がこれを怠り、建築基準法所定の道路が付設されているものと軽信して本件土地を控訴人に売渡したことについては過失があったものというべきであり、同被控訴人の右売渡しは不法行為に当るものというほかはない
しかしながら、《証拠略》によれば、今後前記道路位置の指定が得られないため建築確認が受けられないことが確定的になったともいえない上に、他方、控訴人はさきに認定したとおり、本件土地上に建物を建ててこれに居住し、営業活動を行なって来たものであり、その間所轄行政庁から建物除却の命令を受けたこともなく、六年余を経て自己の都合によって本件土地上の本件建物から転居したものであるから、控訴人には、本件土地の買受けにより、これと相当因果関係に立つべき損害は発生しなかったものとみるのが相当であり、後述のとおり、売主に対し瑕疵担保責任を追求することによって処理するほかないというべきである。
従って、被控訴人○○に対する不法行為による損害賠償請求はその余の点につき判断するまでもなく、理由がないものというべきである。
建築業者の責任
(判旨抜粋)
本件建物の建築を請負った業者として、控訴人に対し事前に建築確認を受けるべきことを説明ないし勧告すベき義務があるものというべきところ、右被控訴人には前示のとおりこれを怠り、格別の注意を払わなかったものであるから、右被控訴人には右の点につき過失があったものというべきであり、右被控訴人の本件建物の建築もまた不法行為に当るものとみるほかはないが、他方、前示のとおり、本件建物は契約どおり建築、引渡がなされ、かつ、控訴人は除却命令を受けることなく六年余に亘って本件建物に居住して営業活動を行なった上、自己の都合によりこれから転居したものであり、今後本件建物につき建築確認が得られないことが確定的になったわけでもないから、控訴人には何らの実損害も発生していないものとみるべきである。
大阪高等裁判所昭和58年7月19日判決(説明義務)
仲介業者が、土地売買に際し、建築規制があることを説明しなかったことについて、説明義務違反を認めた事例
(判旨抜粋)
第一審被告は第一審原告が本件土地を購入のうえ右土地上に家を建てる計画であることを知悉していたものであるにもかかわらず昭和五四年五月一七日の本件売買契約成立当時本件土地に家を建てるには堺市宅地開発指導要綱に基づく開発許可を取得したのみでは足りず、本件建築規制すなわち開発行為についての開発許可を取得したうえ開発許可を受けた者による右許可に従つた開発工事を完了させ、その工事完了検査証の交付を受けることが必要であり、このような建築規制を受ける土地であることを取引主任者たる訴外○○をして第一審原告に説明させなかつたものであることが明らかである。
このように第一審被告がその媒介にかかる売買により土地を取得しようとする者に対してその売買契約が成立するまでの間に取引主任者をしてこれらの重要な事項の説明義務を尽さなかつたことは、明らかに宅地建物取引業者に対し重要事項の説明等の義務を課した宅地建物取引業法三五条一項に違反するものである。しかも宅地建物取引業法が宅地建物取引業者にこのような重要事項の説明等の義務を課しているのは、宅地建物取引業者の関与する宅地建物の取引における購入者の利益の保護を図ることを配慮したものであつて、このことは同法の一条、三一条の規定からみても明白であり、したがつて第一審被告が右重要事項の説明義務を尽さなかつたことが違法であるというべきことは明らかである。

