A 裁判例上、自治会は強制加入ではなく任意加入であり脱退することができるとされています。もっとも、共益費相当額については支払いを約したことを認定して支払義務を肯定する裁判例があります。
最高裁判所平成17年4月26日判決
自治会について退会することができるとされた事例
【事案の概要】
県営住宅の入居者を会員とする自治会
被告(入居者)は、自治会に対して脱退の意思表示をした。
自治会は、被告に対して未払自治会費を請求し訴訟提起
脱退の可否が争点となった。
【判旨】
(判旨抜粋)
被上告人は、会員相互の親ぼくを図ること、快適な環境の維持管理及び共同の利害に対処すること、会員相互の福祉・助け合いを行うことを目的として設立された権利能力のない社団であり、いわゆる強制加入団体でもなく、その規約において会員の退会を制限する規定を設けていないのであるから、被上告人の会員は、いつでも被上告人に対する一方的意思表示により被上告人を退会することができると解するのが相当であり、本件退会の申入れは有効であるというべきである。
もっとも、自治会費の支払義務はないが、共益費については支払約束があるとして支払義務はあるとされました。
東京地方裁判所令和3年9月22日判決
退会したか否かに関わらず、共益費に相当する自治会費の支払義務があるとした事例
【事案の概要】
都営住宅の居住者を構成員とする自治会(権利能力なき社団)の自治会費の支払請求
【判旨】
(判旨抜粋)
(1)前記前提事実および認定事実によれば,本件都営住宅においては,いずれも共益費等として,東京都が徴収するものと被控訴人が徴収するもの(自治会費)の2種類が存在するところ,自治会費は,前記1(1)の徴収額変更の前後を通じて,共用部分の維持管理に必要な電気料金や上下水道料金等に使用するために徴収されるものと認めるのが相当であり,同費用の支出により,控訴人を含む本件都営住宅の居住者全員が恩恵を受けるものであって,このことは,居住者が被控訴人の会員であるか否かに左右されるものではない。また,Aは,本件都営住宅の居住者に対し,自治会費を必ず支払うよう通知し,控訴人を除く居住者はこれに従っていた上,現に,控訴人も,平成26年6月分まで,自治会費を支払っていた。
以上の点に照らせば,控訴人は,本件都営住宅に入居するに際し,被控訴人に対し,本件都営住宅に居住する間,自治会費を支払うことを約したものということができる。そうすると,被控訴人は,控訴人に対し,控訴人が被控訴人を退会したか否かにかかわらず,自治会費の支払を請求することができるというべきである。
(2)控訴人は,平成26年12月4日に被控訴人を退会したためそれ以降の自治会費の支払義務を免れると主張するが,前記(1)で判示した点に照らし,採用することができない。
また,控訴人は,自治会費が実際に水道光熱費,清掃費,事務費,会議費,消耗品費等に支出されているか否かは明らかではないなどと主張するものとも解されるが,前記(1)の判示に照らせば,控訴人は,共用部分の維持管理の費用として徴収されている自治会費の支払義務を負うというべきであり,この理は,徴収された自治会費の現実の用途によって左右されるものではないから,上記主張は採用することができない。
東京高等裁判所平成24年5月24日判決
マンション管理組合の管理費から町内会費を支出する旨の総会決議が有効とされた事例
【判旨】
(判旨抜粋)
(2) 管理費から町会費を支出する予算を承認する本件総会決議の効力について
本件規約31条7号において「官公署,町内会等との渉外業務」が管理組合の業務として定められ,同規約66条20の(3)において「本件マンションの区分所有者または占有者は町内会に加入すること。その場合,名目の如何を問わず町内会費の負担があり,管理費に含んで徴収される。」と町内会への加入と町内会費の負担が定められており,本件規約のこれらの規定からすると,地域住民で組織する任意団体である町内会と良好な関係を形成し,本件管理組合の構成員にとって地域と調和の取れた環境を作り出すための活動をすることも本件管理組合の業務として定めていると解される。このような活動が本件マンションの環境整備の一環としてその管理に関する事項に含まれることはいうまでもない。したがって,本件管理組合が,本件町内会に町会費名目で金員を納入し,本件町内会の活動に参加し,それに協力することは,その本来の業務に含まれるというべきである。そして,本件管理組合による上記のような業務は,本件管理組合の構成員である本件マンションの区分所有者の承認のもとに行われるものであるから,それに伴って必要となる費用は本件管理組合の業務執行に伴う費用として管理費から支出することができるものであり,町会費はその費用ということができる。
ところで,本件管理組合においては,この町会費を管理費と区別して徴収することはしていないから,本件規約の町会費の負担に関する上記規定も,管理費から支出されるという意味において,区分所有者にその負担を求めたものと解すべきである。
この点に関し,控訴人は,管理費から町会費を支出することは,本件マンションの区分所有者に事実上本件町内会への加入を強制するものであり,無効であると主張するが,本件管理組合が本件町内会に納入する町会費は,上記のとおり管理費から町内会費名目で支出するものであるところ,本件町会への町会費の納入やその原資の徴収方法については本件管理組合自体がその団体的意思として決定すべき事柄であり,これを改めるのであれば総会における議事を通じて本件規約を改正すればよいのであって,本件規約の現行規定が原判決第2の1(3)のとおりである以上,これに従ってされた本件総会決議が無効とされることはない。控訴人が,引用する最高裁判決は,県営住宅(団地)の入居者と団地の住人によって構成される自治会との関係において,自治会に対し退会の意思表示した者に対する自治会費等の請求の当否が直接問題とされたものであって,本件と事例を異にし,同判決によって上記結論が左右されるものではない。
