A 市街地再開発事業において、借家人が再入居を選択した場合、賃貸人と賃料等の条件を協議(都再法102条1項)することとなりますが、協議がまとまらなければ組合が裁定(都再法102条2項)することとなり、当該裁定に不服があるときは、裁定から60日以内に訴えを提起することができます(都再法102条6項)。
借家人としては転出を申し出て補償を受け取るか、再入居を選択するかを検討するにあたって再入居後の賃料が分からないという点がネックになる傾向があると思います。公表されている裁判例や裁定が少なく一概に何割程度上がる(下がる)と断定することはできませんが、裁判例をご紹介します。一見して賃料総額はそこまで上がっていないと思われますが床面積あたりの単価にすると相当程度上がっている場合が多いと思われます。
再入居後の賃料を支払うことが覚悟できるのであれば、再入居を選択し、再開発後の引渡しまでに賃貸人と立退交渉を行い等により、組合基準の補償よりも高い立退料の取得を目指すこともあり得ます。
東京地方裁判所平成27年9月30日判決(東京高等裁判所平成29年5月31日判決の原審)
従前賃料:月額113万5000円(H22.7.1自動更新)
組合裁定:月額141万2600円(H24.10.16裁定)
原告主張:月額324万7000円
被告主張:月額118万3000円
裁 判 所:月額179万2000円(H25.3.1以降)
東京高等裁判所平成29年5月31日判決(東京地方裁判所平成27年9月30日判決の控訴審)
原審を取り消し、組合裁定の月額141万2600円を採用した。
再開発前:床面積 1階 248.83㎡/2階 248.83㎡
賃料月額113万5000円(2281円/㎡)
再開発後:床面積 1階部分 209.83㎡
賃料月額141万2600円(6732円/㎡)
賃貸人の受けるべき適正な利潤が考慮されているのであれば、都市再開発法103条に基づく家賃算出方法を採用しても違法ではないとされ、103条方式によれば、標準家賃の額から借家権価額の償却額を控除した額が家賃の額となるのに、本件裁定においては、標準家賃の額をそのまま家賃額としていることから、本件裁定は、減額変更する余地はあっても、増額変更する余地はないとして、第一審原告の請求を棄却した。
東京地方裁判所令和4年3月3日判決
再開発による再入居後の賃料増額請求の事案。再入居後に賃料がどうなっていたのかについて参考として紹介。
従前賃料:月額67万1000円
床面積 合計112.34㎡(5973円/㎡)
再開発後(組合裁定):
月額35万3700円(R1.11.26裁定)
床面積 39.19㎡(8723円/㎡)
東京地方裁判所令和6年1月31日判決
従前賃料:月額7万円
組合裁定:月額10万3000円(R4.10.7裁定)
原告主張:月額7万円(R4.12.8訴訟提起)
被告主張:月額10万3000円
裁判所:月額10万3000円
再開発前:木造スレート葺2階建
床面積1階24.30㎡/2階24.30㎡
賃料月額7万円(1440円/㎡)
再開発後:鉄筋コンクリート造1階建
床面積 8階部分31.59㎡(登記簿上)
賃料月額10万3000円(3260円/㎡)
都市再開発法に基づく第一種市街地再開発事業に係る権利変換手続により本件建物に係る賃借権を与えられた原告が、本件建物の「家賃の額」に係る裁定を不服として、上記手続により本件建物を与えられた被告に対し、その変更を求める当事者訴訟において、「本件裁定は、法103条方式及び不動産鑑定評価手法という合理性のある算定方法を用いて算定された月額賃料を参照し、これを下回る被告申出に係る金額を考慮して家賃の額を決定したものであり、しかも、本件記録を精査しても、法103条方式を用いることが不合理であるといえる特段の事情は認められないのであって、本件裁定における10万3000円という家賃の額は、賃貸人である被告の受けるべき適正な利潤を考慮して決定されたものということができる。」として請求を棄却した。

