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辻田寛人
弁護士
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Q 家族信託において、「受託者が相当と認める額の生活費等を受益者に交付する」旨が定められている場合、どの程度の生活費を交付すればいいのでしょうか。交付しなければならない最低額はあるのでしょうか。

A 別段の合意がない限り、交付しなければならない最低額等はなく、受託者の裁量に委ねられています。もっとも善管注意義務は存するものと思われます。家族信託契約において交付する金額の水準については信託契約の作りこみが必要であると思われます。

東京高等裁判所令和6年2月8日判決
 家族信託において、「受託者が相当と認める額の生活費等を受益者に交付する」旨が定められている事案において、いついくら交付するかは受託者の裁量に委ねられているとされた事例

【事案の概要】
 家族信託において、受託者による金銭の支出について、次のとおり定められていた。
 「受託者は、信託金融資産から公租公課、保険料、修繕費その他の必要経費を支払い又は控除した上、受託者が相当と認める額の生活費等を受益者に交付し、受益者の施設利用費、病気療養費等を銀行振り込み等の方法で支払う。また、受益者の希望に沿った必要な費用、祭祀に係る費用を支払う。」
 受益者の主張:経費を除いた残額(のうち受益者が2名いるため残額の2分の1)を交付すべき
 受託者の主張:受託者の広範な裁量に委ねられている。
 ⇒裁判所は受託者の裁量に委ねられていると判断

【判旨】

(判旨抜粋)
 本件信託公正証書第7条は、受託者が受益者に対し、信託金融資産から受益者の生活費等を交付すべきことを定めるものであるが、生活費等の具体的金額やその算定方法は明らかにされておらず、生活費等の交付時期も明示されていない。また、本件信託公正証書におけるその他の条項をみても、受託者が受益者に交付すべき生活費等の具体的金額やその算定方法、交付時期について、これを明示し、又は示唆するものは存在しない(なお、本件信託公正証書の第2条には、本信託の目的が、本件信託不動産及び現金250万円を信託財産として管理運用及び処分等を行い、受益者に対し必要な財産の給付等を行い、受益者の幸福な生活と福祉を確保すること等であることが記載され、第5条には、委託者の被控訴人に対する扶養の範囲で、被控訴人に受益権を与える旨が記載されているが、いずれも抽象的な内容にとどまるものであって、これらの規定をもって、受託者が受益者に交付すべき生活費等の具体的金額やその算定方法、交付時期を定めるものであるとは解し難い。)
 これに加えて、①本件信託契約2の締結後、受託者である控訴人が受益者である被控訴人に対し、被控訴人の生活費等として、本件信託不動産の賃料収入の一部を定期的に交付していた事実は認められないこと、②本件信託公正証書第7条にいう「必要経費」には、公租公課、保険料、管理費等の定期的に支出されるもののほか、修繕費等の不定期に支出されるものも含まれているところ、本件信託不動産のうち、E及びF賃貸建物は賃貸物件であることや、被控訴人は精神障害を有し入院歴及び施設入所歴があること(弁論の全趣旨)からすると、受託者において、一定期間(例えば、1か月、1年間等)の賃料収入から当該期間に支出した経費を控除した残額の2分の1を、当該期間経過後直ちに、受益者である被控訴人に対して支払うのではなく、将来における上記建物の修繕費等や被控訴人の入院費用及び施設入所費用等の支出に備えて、賃料収入のうち相当額を保管しておくことなども、受託者の裁量の範囲内のものとして許されると考えられることなどを併せ考慮すると、被控訴人の指摘する本件信託契約2の目的や、本件公正証書遺言における付言事項を考慮するとしても、本件信託契約2に基づく具体的な権利として、被控訴人が控訴人に対し、本件信託不動産に係る一定期間に生じた賃料収入から経費を控除した金額の2分の1の請求権を有するものとは解し難いといわざるを得ない。本件信託不動産の賃料収入から、被控訴人の生活費等として、いつ、幾らを支払うかについては、受託者である控訴人の裁量に基本的に委ねられているものと解するのが相当であり、被控訴人の上記主張を採用することはできない。

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