A 条文上は、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」であり、最終的には提出書類等の一切を考慮した「裁判所の判断」ですが、実務的には以下のような考え方をしています。
医師の診断書の取得
医師の診断書を取得して、後見・保佐・補助のいずれが適切かを考えます。
裁判所ホームページに診断書作成の手引きがあります。診断書の書式によれば、以下の項目があります。
3 判断能力についての意見
□ 契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することができる。
□ 支援を受けなければ、契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することが難しい場合がある。
□ 支援を受けなければ、契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することができない。
□ 支援を受けても、契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することができない。
上記「3 判断能力についての意見」は、後見相当・保佐相当・補助相当と対応関係があるとされています。
3 判断能力についての意見
□ 契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することができる。
□ 支援を受けなければ、契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することが難しい場合がある。⇒補助相当
□ 支援を受けなければ、契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することができない。⇒保佐相当
□ 支援を受けても、契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することができない。⇒後見相当
なお、診断書はあくまで裁判官の判断の一材料に過ぎないため、100%の対応関係にあるわけではないことにご留意ください。場合によっては、鑑定が実施される場合もあります。
改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)
MMSE(mini mental state examination)
上記、診断書の書式にも記載する欄がありますが、長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)やMMSE(mini mental state examination)が一つの指標となります。
長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)において、30点満点中20点未満は、「認知症の疑い」があるとされ、10点以下は成年後見、11点~15点は保佐、16点~19点は補助程度であると概ね考えられているとのことです(参照:公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート編『成年後見の実務-フローチャートとポイントー』24頁)。
長谷川式簡易知能スケール(HDS-R)はインターネットで検索していただければ、容易に検査内容を知ることができ、自宅でもやってみることが可能ですし、実際にやらずとも、普段一緒に住まれているご家族の方であれば、長谷川式簡易知能スケール(HDS-R)を読んでみて、この程度はできそう/できなさそうは体感で分かるという方もいると思います。
MMSE(mini mental state examination)では、30点満点で、10点未満が高度障害、20点未満が中度障害と考えられています。長谷川式とMMSEでいずれも10点未満であれば、後見相当とみてよいと考えられています(参照:東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編『弁護士専門研修講座 高齢者をめるぐ法律問題』284頁)。
成年後見開始申立事件において、裁判所が後見相当ではなく、保佐相当だと判断する場合のように、裁判所が申立てとは異なる類型が相当であると判断するときは、申立の趣旨を変更するように促してきます。自動的に異なる類型での決定が出るわけではありません。変更されない場合には申立ては却下されます。
東京高等裁判所平成25年6月25日決定
長谷川式認知症スケールの点数が12点ないし16点であった事案において、後見相当とまでいえるかは疑問であるとし、審理不尽として原審に差し戻した事例
(判旨抜粋)
原審は、本件につき、本人の精神の状況を鑑定せず、また、成年被後見人となるべき本人の意見を聴取することなく、基本的にNの医師が作成した平成24年12月19日付けの診断書(成年後見用)(以下「本件診断書」という。)の記載に基づき、本人について後見開始の審判をしている。
確かに、本件診断書には、医学的診断の診断名として、認知症と記載され、判断能力判定についての医師の意見として、「自己の財産を管理・処分することができない(後見相当)」という欄にチェックが付されている。そして、本件診断書の「判定の根拠」欄を見ると、本人の見当識については、障害が見られるときが多いとされ、社会的手続や公共施設の利用については、できないとされているから、本人の判断能力が低下していることは十分認められるところである。しかしながら、他方で、本件診断書の「判定の根拠」欄において、他人との意思疎通は、できないときもあるとされるにとどまり、記憶力についても問題があるが程度は軽いとされている。さらに、本人の長谷川式認知症スケールの点数は、同年8月2日実施の検査では12点であり、同年11月5日実施の検査では16点であったことは前記(1)カで認定のとおりである。
以上の点に照らせば、本件診断書から、本人の判断能力に問題があることは認定できても、直ちに、その程度が後見相当とまでいえるかは疑問があるところである。
したがって、本人の判断能力の低下の程度が、民法7条が定める程度(いわゆる後見相当)にまで達しているか否か、あるいは、補助相当又は保佐相当にとどまるかなどについて、本件診断書以外の証拠を調べるなどして、更に審理を進め、その中で、本件が家事事件手続法119条1項ただし書に該当するといえる場合にあたるか否かも判断されるべきであるところ、これを行っていない原審は、審理不尽の謗りを免れない。また、本件診断書によれば、少なくとも、平成24年12月の時点では、本人は、他人との意思疎通ができないときもあるという程度であるから、家事事件手続法120条1項1号により、本人の陳述を聴かなければならないところ、原審の審判時において、本人について同条1項ただし書の状況があったことを認めるに足りる証拠はないから、この点についても、原審は、審理不尽であったといえる。
(4)結論
以上のとおり、相手方による本件申立ては、適法なものであったと認められるものの、本人についての後見開始の実体的要件に関し審理不尽があり、手続的にも、家事事件手続法119条1項ただし書及び同法120条1項ただし書に該当するか否かが明らかでないにもかかわらず、これを不要としている点について審理不尽があるといわざるを得ない。よって、原審判を取り消し、上記の各点について、改めて審理するため、本件を原審に差し戻すこととする。

