A 樹木の倒壊により他人に損害が生じた場合には、損害賠償責任を負う可能性があります。
福岡高等裁判所令和4年1月28日判決
「竹木の植栽又は支持に瑕疵がある場合」(民法717条第2項)の判断方法について判示した裁判例
(事案の概要)
県道を走行していた自動車の上部に、同県道沿いの土地に生育していた樹木が倒れて直撃し、自動車の運転者が死亡した事故に関し、被害者の相続人らが土地所有者の相続人ら及び市(県道の管理者)に対して損害賠償請求を行った事案
(判旨抜粋)
「控訴人Y1らは,争点1に関し,Bが本件樹木の倒木を予見することは不可能であり,そうである以上,民法717条2項の責任を負うものではない旨を主張する。
しかし,民法717条2項が定める「竹木の栽植又は支持」の「瑕疵」とは,当該竹木が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。そして,本件樹木に上記瑕疵が認められるか否かは,本件事故当時における本件樹木の生育状態,場所的環境及び所有者であるBの管理の状況等諸般の事情を総合考慮して,個別具体的に検討・判断すべきである。
そこで,これを本件についてみると,本件事故当時の本件樹木の生育状態や形状,場所的環境,Bの管理状況等は,上記(原判決「事実及び理由」欄の第3の2(2))認定・説示のとおりである。そして,これらを総合考慮すると,本件事故当時,本件樹木は,支持根が腐朽したことにより,樹体を支えていた支持力が低下し,それによりいつ倒木してもおかしくない状態にあったといえる。したがって,そのような危険性を有していた本件樹木は,通常有すべき安全性を欠いているというほかなく,上記の意味での「瑕疵」があるというべきである。」
(原判決「事実及び理由」欄の第3の2(2))
熊本地方裁判所令和3年6月23日判決
「(2)これを本件についてみるに,前記1(5)のとおり,本件事故発生日の翌日に本件樹木の調査をしたH樹木医は,本件樹木には生育活動を示す緑葉がなく,枝は小枝ほど腐朽が進行しているため,4~5年前には枯損していたと思われるとの見解を示していることからすると,本件樹木の所有者であるBにおいて,本件事故の4~5年前から本件樹木が枯損していることを外観から把握することは可能であったと考えられる。また,H樹木医は,本件樹木が倒れた原因について,周囲で競合するモウソウチクとの生存競争に敗れ日照不足等で生育環境が悪化したため樹勢が衰退し,根株心材腐朽菌(ベッコウダケ)の着生により根系枯損・腐朽が進行して支持力の低下により倒木に至った旨の見解を示しているが,本件樹木の周囲に高さ18~20mの竹が密生し,それより低い本件樹木には日照が十分届かないなどの生育環境の悪化(丙2の3枚目)や本件樹木が高さ6m付近で大きく枝分かれし頭でっかちのいびつな樹形となっていたことも外観から視認・把握することが可能であり,時間の経過により本件樹木の枯損状態が進行して根の支持力も低下し,倒木の危険が生じることは専門家でなくても予想し得た事態であると考えられる。
さらに,前記1(3)ウのとおり,被告熊本市は,Bを含む本件県道沿いの私有地の所有者に対し,樹木の枯渇による倒木の危険性について言及して竹木の伐採・剪定等を求める平成25年8月8日付け文書及び平成26年5月29日付け文書を送付し,Bの実家に居住するBの兄が上記各文書を受領していたのであるから,Bが上記被告熊本市からの要請を受けて本件土地内の竹木を伐採・剪定等していれば,本件樹木を含む枯損木の倒木の危険性を予想することは可能であったものと考えられる。
そして,前記1(1)のとおり,本件樹木は,本件県道沿いの本件土地に生育していた樹高約9mの樹木であり,本件樹木の根元から本件県道の歩道までの距離が約5m,車道までの距離が約7mであった上,本件土地が本件県道側に向かって低くなる傾斜状の土地であったことからすると,本件樹木が倒れた場合には本件県道に倒れ込む可能性が高かったことが推認される上,本件県道が片側2車線の道路であり,本件土地の北側及び南側に大型ショッピングセンターや複数の住宅が存在していることなどの周囲の状況(前記1(1)イ)からすると,本件土地付近の本件県道の交通量は比較的多かったと考えられるから,本件樹木が本件県道に倒れ込んだ場合,本件県道を走行する車両や歩行者に衝突するなどの事故が発生することを予想することも可能であったといえる。
以上のような本件樹木の生育状態や場所的環境及び所有者であるBの管理の状況等を考慮すると,本件樹木が本件県道に倒れ込んで事故が起きることを予想することは可能であり,H樹木医がいうように事前に伐採や大枝切除等の対策を講ずる必要があったというべきであるから(前記1(5)ア,イ),かかる対策が講じられていなかった以上,本件樹木は,竹木が通常有すべき安全性を欠き,その栽植又は支持に瑕疵があったものと認められる(なお,前記1(6)のとおり,Bは本件事故後に本件土地を約900万円で売却できていることからすると,自ら対策を講じなくても不動産会社等に本件土地を売却し管理処分を委ねることも可能であっということができる。)。」
上記福岡高等裁判所令和4年1月28日判決は上告審(最高裁判所第一小法廷令和4年12月22日判決)にて上告不受理決定となっています。

