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辻田寛人
弁護士
 幅広く弁護士業務を行っており、中でも不動産業者様の顧問業務を多く取り扱っております。
 不動産業者様が日常的に疑問を持たれる法律問題についてすぐにご回答できるように日々研鑽を重ねています。顧問業務に限らず個別の案件のご依頼についても多数の経験を有しています。
 お気軽にお問い合わせいただければ幸いです。

Q 不動産売買に関し、手付解除における「履行の着手」はどのような場合に認められますか。

A 「履行の着手」について、最高裁判所昭和40年11月24日判決は、「債務の内容たる給付の実行に着手すること、すなわち、客観的に外部から認識しうるような形で履行行為の一部をなし又は履行の提供をするために欠くことができない前提行為をした場合を指す。」とします。また、最高裁判所昭和41年1月21日判決は、その判断方法について、当該行為の態様、債務の内容、履行期が定められた趣旨・目的等諸般の事情を総合勘案して決すると判示しています。

【履行の着手肯定例】
・第三者所有不動産の売買契約について、買主に譲渡するために当該第三者から当該不動産を調達した行為(最高裁判所昭和40年11月24日判決)
・売買不動産上に存する賃貸借契約の解除(負担消除条項の履行)(東京地方裁判所平成21年10月16日判決)
・買主が、履行期の後、代金を準備して履行の催告をした行為(最高裁判所昭和33年6月5日判決)

【履行の着手否定例】
・売主が行った司法書士への登記委任、固定資産税証明書の取得、領収書の作成(東京地方裁判所平成17年1月27日判決)
・履行期前に、代金の口頭の提供をして催告をした行為(最高裁判所平成5年3月16日判決)
・買主が、住宅ローンの申し込み、投資信託の解約、親族からの借り入れを行った行為(東京地方裁判所平成29年2月27日判決)

最高裁判所昭和26年11月15日判決【履行の着手肯定】

(判旨)
家屋の買主が、約定の明渡期限後売主に対ししばしば明渡を求め、且売主が明渡をすれば何時でも約定残代金の支払を為し得べき状態にあつたときは、現実に一代金の提供をしなくても、民法第557条にいわゆる「契約ノ履行ニ著手」したものと認むべきである。

最高裁判所昭和30年12月26日判決【履行の着手肯定】

(判旨)
賃借人の居住する家屋の売買で、売主が賃借人に家屋の明渡をなさしめた上これを買主に引渡す約定のある場合、買主が、しばしば売主に対し賃借人に実屋の明渡をなさしめてこれが引渡をなすべきことを督促し、その間常に残代金を用意し、明渡があればいつでもその支払をなし得べき状態にあつた上、売主が買主とともに賃借人方に赴き売買の事情を告げて家屋の明渡を求めた場合には、買主および売主の双方に、民法第557条にいわゆる「履行ノ著手」があつたものと認めるのが相当である。
最高裁判所昭和40年11月24日判決

最高裁判所昭和41年1月21日判決【履行の着手肯定】

(判旨抜粋)
民法五五七条一項にいう履行の着手とは、債務の内容たる給付の実行に着手すること、すなわち、客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指すものと解すべきところ、本件において、原審における上告人の主張によれば、被上告人が本件物件の所有者たる大阪府に代金を支払い、これを上告人に譲渡する前提として被上告人名義にその所有権移転登記を経たというのであるから、右は、特定の売買の目的物件の調達行為にあたり、単なる履行の準備行為にとどまらず、履行の着手があつたものと解するを相当とする。

東京地方裁判所平成17年1月27日判決
 履行の着手を否定した事例

(判旨抜粋)
 原告は、1において認定した司法書士への登記委任固定資産評価証明書の取得領収証の作成が本件売買契約の履行の着手に当たると主張する。
 しかしながら、これらの行為は、履行行為の一部でもなければ、履行の提供に不可欠の前提行為にも当たらず、契約の履行の準備行為に該当するにすぎないものであって、履行の着手があったものとみることはできないというべきである。その理由は、次のとおりである。
 解約手付の交付があった場合には、格別の特約のない限り、当事者双方は、履行のあるまでは自由に契約を解除する権利を有しているものと解すべきである。しかるに、当事者の一方が既に履行に着手したときは、その当事者は、履行の着手に必要な費用を支出しただけでなく、契約の履行に大きな期待を寄せていたわけであるから、このような段階において相手方から契約を解除されたならば、履行に着手した当事者は不測の損害を被ることとなる。したがって、このような履行に着手した当事者が不測の損害を被ることを防止するため、民法557条1項の手付解除の規定が設けられたものと解される。
 甲1によれば、本件契約においても、買主の行う手付解除に関しては、民法557条1項と同趣旨の内容が定められているものと認められる(甲1によれば、売主の行う手付解除に関しては、買主による履行の着手の如何にかかわらず、手付倍返しによる契約解除はできない旨の特約が成立したことが認められる。)。
 そして、履行の着手とは客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし、又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指すものであり、他方、単なる契約の履行の準備行為にすぎないものをしたにとどまる場合は履行の着手に当たらないものと解すべきである。
 1において認定した司法書士への登記委任、固定資産評価証明書の取得、領収証の作成は、履行行為の一部に当たらないことは、明らかである。
 また、これらの行為は、履行の提供をするために欠くことのできない前提行為ということもできない。すなわち、これらの行為は、本件売買契約とは別の独立した法律行為ではなく、行政法上の許認可の取得等の公法上の行為でもなく、本来いかなる用途に使用することも可能な金銭の用途を契約上の金銭債務の履行のために履行期後長期間にわたり拘束する行為でもないのである。そして、これらの行為は、単なる本件売買契約の履行の提供のための準備行為にすぎず、「前提行為」には該当しないものというべきである。
 登記手続は司法書士に委任しないとできないものではないから、履行に不可欠なものとはいい難く、固定資産評価証明書の取得や領収証の作成は、単なる準備行為そのものにすぎないものというべきである。
 もちろん、原告において登記手続の委任、固定資産評価証明書の取得及び領収証の作成につきある程度の費用を支出したことは、前記認定事実から容易に推認することができるところであり、これが原告に発生した損害に当たることは認めなければならない。しかしながら、このような損害が巨額にのぼることはないことも経験則上明らかである。そして、履行期日の2日前に突然解除されたことを考慮に入れても、このような損害が「不測」の損害に当たるとはいい難いものというべきである。また、このような損害は、解約手付を取得することにより十二分にてん補されるものであることも経験則上明らかである。したがって、本件において解約手付の放棄による解除を認めることにより、履行に着手した当事者に不測の損害が生ずることを防止するという解約手付制度の立法趣旨を損なうこともないものと考えられる。

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