A サブリース事業を前提とした、マスターリース契約の解約又は更新拒絶にかかる立退料については以下の裁判例があります。サブリース業者が取得する転貸賃料と賃料との差額を念頭においた立退料が検討され、単なる賃貸借契約とは異なる金額感となっています。これらの金額を支払えば解約や更新拒絶が必ずできるという意味ではなく、いずれも正当事由が認められることを前提とした立退料として把握してください。
東京地方裁判所平成27年8月5日判決
マスターリース契約の更新拒絶が認められた事例
マスターリース賃料:月額10万円
サブリース(転貸)賃料:月額13万3000円(差額3万3000円)
立退料:50万円(賃料の5か月分、賃料差額の約15か月分)
(判旨抜粋)
(2) 他方、被告は、本件建物を賃貸(転貸)して賃料を得ているにすぎないものであるから、本件建物を使用する必要性としては、本件建物を転貸して経済的利益を得ることに尽きるところ、その経済的利益は月額3万3000円(13万3000円-10万円)にすぎず、本件契約の終了によって被告の経営に影響を及ぼすような重大な不利益が生ずるものとは認められない。
また、原告が転借人に対する被告の地位を引き受ける立場に立つことは前述のとおりであるから、転借人の事情(その保護の必要性)を考慮する必要性はない。
(3) 以上のとおり、原告側の事情(本件建物を占有負担のない形で売却するために本件契約を終了させる必要性)は、本来的な意味での自己使用の必要性をいうものではなく、それだけで正当事由を充足するということはできないが、他方、被告側にとっても本件建物を使用する強い必要性があるわけではなく、これらの事情を総合すれば、相当額の立退料を支払わせることで、正当事由を補完することができるというべきである。そして、その立退料の額は、これまでに認定した一切の事情及び後記4の賃料相当損害金の支払義務の状況等を総合勘案して、50万円と認めるのが相当である。
東京地方裁判所令和5年4月27日判決
マスターリース契約の更新拒絶が認められた事例
マスターリース賃料:月額6万8523円
サブリース(転貸)賃料:不明
立退料:41万1138円(賃料の6か月分)
(判旨抜粋)
原告は、①本件物件を購入した約4年後である令和3年2月頃、自宅を購入するために住宅ローンの事前審査を受けたところ、本件物件の購入に係るローンの残債務を主な理由として審査が通らなかったこと、②上記残債務を減らすために本件物件を売却することを計画したが、不動産会社から、本件物件のようにサブリースが付いた収益物件の売却は難しく、相当に価格を下げなければ売れないと言われたこと、③そのため、本件賃貸借契約を終了させることを希望し、その更新をしない旨の通知をしたことが認められる。
以上のとおり、原告は、本件物件をできる限り高額で売却することを希望して本件賃貸借契約の更新をしない旨の通知をしたものといえる。このような事情は、典型的な「建物の賃貸人・・・が建物の使用を必要とする事情」(借地借家法28条)とはいい難いものの、これに該当し得る事情とはいえるのであって、他の事情との総合的な考慮により、正当な事由があると認められることもあり得るというべきである。
(2) そこで他の事情について検討すると、まず、本件賃貸借契約の賃借人である被告が本件物件の使用を必要とする事情は、本件物件を転貸することにより経済的利益を得ることに尽きる。そして、前提事実(2)のとおり、本件賃貸借契約は、契約期間開始から1年経過後は、6か月間の予告期間をもって3か月分の賃料に相当する額を支払えば、賃貸人が解約権を行使し得る旨の定めを置いており、この定めの限度では被告の経済的利益を確保する趣旨であると解されるが、被告においてこれを超える経済的利益を当然に確保することを期待し得るものではない。また、被告において、賃貸人からの本件賃貸借契約の解約又は更新拒絶をより困難にする定めを置くことに支障があったことをうかがわせる証拠もない。
次に、本件物件は居宅であるから、その転借人が本件物件の使用を必要とすることは容易に想定し得るものの、本件賃貸借契約が更新拒絶により終了したとしても、原告が本件物件の転貸借契約における被告(転貸人)の地位を承継することとなるから、上記転借人を保護するために本件賃貸借契約の更新拒絶を制約すべきものとはいえない。
(3) 以上の事情を総合的に考慮すると、原告が本件物件の使用を必要とする事情が典型的なものでなく、他方、被告が本件物件の使用を必要とする事情が経済的利益を得ることに尽きること等に鑑み、立退料の額について、本件賃貸借契約に定めるものの2倍である6か月分の賃料に相当する額とすれば、原告による本件賃貸借契約の更新拒絶には正当な事由があると認められる。
東京地方裁判所令和5年12月8日判決
マスターリース契約の更新拒絶が認められた事例
マスターリース賃料:月額13万5200円
サブリース(転貸)賃料:月額15万円(差額1万4800円)
立退料:67万6000円(賃料の5か月分、差額賃料の約45か月分)
(判旨抜粋)
1 原告の本件建物の使用を必要とする事情等について
証拠(甲4)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、新たに自宅を購入するために住宅ローンを組むことを検討しているが、金融機関から融資の条件として本件建物に関する旧住宅ローンの完済を求められており、そのために本件建物を早期かつ高額に売却することを望んでいることが認められる。
……そして、証拠(甲7~9)によれば、令和5年6月30日時点における本件建物の住宅ローン残高は2795万7268円であること、本件建物の売却価格査定は2500万円ないし2700万円、本件賃貸借契約が存在しない場合の売却査定価格が2770万円ないし3000万円であることが認められる。してみると、原告は本件建物に自ら居住することを予定しているものではなく、その売却を予定しているものではあるが、本件賃貸借契約を解約して本件建物を高額に売却する必要性は相当程度に存在するものといえる。
2 被告の本件建物の使用を必要とする事情等について
前記前提事実(1)、(6)のとおり、被告はサブリース業者であり、本件建物につき転借人との間で本件転貸借契約を締結しているから、本件建物を自らが居住するなどして使用するという意味での必要性はない。そのため、被告の本件建物の使用を必要とする事情等は、もっぱら金銭収入の確保であるということができる。なお、本件賃貸借契約が終了した場合には原告は被告の本件転貸借契約上の転貸人の地位を継承する(甲3・14条1項)こととされており、本件建物に居住している転借人が特段の不利益を受けることはない。
そこで、被告が本件建物から得る金銭収入について検討すると、前記前提事実(2)、(6)のとおり、本件建物から被告が得ている利益は本件賃貸借契約の賃料と本件転貸借契約の賃料の差である月額1万4800円である。確かに、被告が主張するとおり、サブリース業者は、個々の契約から得られる利益は小さいため、多数の物件につき契約することで経営が成り立っているという要素はあるものの、本件建物から被告が得ている利益は月額1万4800円であり、経費を考慮すれば実際にはそれよりも少く、被告の経営全体に占める割合はわずかなものであるといえる。
3 両者の比較検討
上記1の原告の本件建物の使用を必要とする事情等と、上記2の被告の本件建物の使用を必要とする事情等の大小を検討する。
原告と被告は、いずれも、居住等の本来的な意味での自己使用の必要性はなく、金銭的な必要性があるにとどまるが、原告においては、本件建物を売却するに際し住宅ローンを完済するという相当程度に高い必要性があるのに対し、被告は月額1万4800円の差益を取得するという程度の必要性であって、その必要性は原告の方がより切実であるといえる。
もっとも、原告も上記のとおり本来的な意味での自己使用の必要性はなく、本件建物が高額で売却できなくても自己資金により住宅ローンを完済することも考えられることからすれば、上記事情のみで借地借家法28条所定の正当事由を具備しているとまではいえない。
そこで、当裁判所は、正当事由の補完事由としての立退料の支払を要するものと思料する。 上記のとおり、被告の本件建物の使用の必要性は、月額1万4800円の差益の取得であるところ、被告が主張するようなサブリース業者の経営の特性を考慮しても、月額賃料の5か月分67万6000円の立退料(上記差益の約46か月分に相当する。)の支払により、被告の不利益は埋め合わせることができると解される。
東京地方裁判所令和6年3月28日判決
マスターリース契約の解約が認められた事例
マスターリース賃料:月額26万2500円
サブリース(転貸)賃料:月額31万1944円(差額4万9444円)
立退料:100万円(賃料の約3.8か月分、賃料差額の約20か月分)
(判旨抜粋)
ア 原告が建物使用を必要とする事情
証拠(甲14、15、17。なお、当事者双方とも、原告の陳述書の記載内容につき尋問を要しないとした。)及び弁論の全趣旨によれば、原告(令和6年に57歳となる。)は、統合失調症によって障害等級2級に認定されている就労不能の状況にある弟(令和6年に54歳となる。)がおり、同人は障害年金月額6万5000円の収入があるにとどまり、他に原告の弟を支援・援助する者もいないため、原告から月額13万円ほどの仕送りや援助をしており、これが原告にとって相応の家計負担となっていること(原告は、その収入から上記仕送り分を控除すると約26万円が残るにとどまる旨陳述する。)が認められる。このような状況下において、原告が年齢相応の生活を維持しつつ、将来的に原告又は原告の弟の老人ホーム入居費用を工面するために、本件転借人との賃貸借関係を被告から承継しつつ、その退去後にサブリース契約の負担のない形での本件建物の売却を容易にするために、本件契約を解約し、本件建物を自ら使用する(本件転借人をしてその退去まで使用させる場合を含む。)一定の必要性が存することは否定することができない。
この点、被告は、サブリース契約の負担があることは当該建物の売却を困難にするものではないと主張し、被告関係物件での成約事例を書証として提出するが、①サブリース契約の負担のある物件は、安定的な賃料収入が見込まれ、物件管理の煩瑣を免れることができる一方、性質上、サブリース事業者の利益を確保するため一般の賃料相場より低廉な賃料にとどめざるを得ないこと、②サブリース事業者が借家人として法により保護され、容易に解約することができないことなどから、一般にサブリース契約の負担のない物件よりも買い手の選好を受け、売却価格を低廉化する事情になり、これは本件契約も同様であって、後記のとおりの被告の事業規模の下で一定の成約事例があるとしても、本件契約の存在は、これがない場合よりも、本件建物の売却をより困難にするといわざるを得ず、被告の上記主張を採用することはできない。
イ 被告が建物使用を必要とする事情
被告は、サブリース事業により転貸差益を得るために本件建物を使用する(居住者に使用させる)必要があるものの、証拠(甲8、13)及び弁論の全趣旨によれば、その事業規模は、資本金6000万円、令和3年2月時点の売上高が47億円を超え、首都圏に多数の店舗を有し、令和元年2月末時点の賃貸管理物件数の実績も1088件に及ぶことが認められ、他方、転貸差益は、前提事実(2)及び(3)に照らせば月額5万0185円(消費税別)にとどまること、本件建物の使用収益につき原告ほどの切実な必要性があるものとはいえない。
また、前提事実(2)及び(3)に照らせば、上記転貸差益は本件転貸借契約締結当初から消費税率の影響の点を除いて変更がなかったもので、被告及び本件転借人が賃料支払を滞納していたなどの事情も見当たらないから、被告は、本件転貸借契約の始期である平成26年11月1日から本件通知による解約により退去を求められる令和5年6月14日までの8年7か月超の間に、少なくとも合計約517万円(消費税別)の転貸差益を得ており、本件契約当初の約半月の空室期間や、本件建物の居住者の客付け、本件建物の一般的管理に要する費用を考慮しても、既にその投下した資本を回収するに余りある相応の転貸差益を収受したものというべきである。
……
オ 立退料の算定
①被告において、本件契約が1度の合意更新を経た場合の10年間存続するものと期待していたとしても必ずしも不合理ではなく、その場合の判決言渡日以降の存続期間約7か月程度の転貸差益は、消費税込みで約39万円となること、②本件契約が解約されても、後記のとおり原告が本件転貸借契約の転貸人の地位を承継するため、物理的な移転を伴わず、その移転費用や休業期間中の営業補償を直ちに考慮する必要がない一方、同等の収益を他のサブリース物件において新たに上げるためには相応の初期費用(ただし、原告から本件契約の保証金が返還されればこれを充てることが可能である。)を要すること、③他方、原告の建物使用を必要とする事情は本来的な意味での自己使用の必要性をいうものではなく、究極的には経済的な利益にとどまるものである上、本件契約により原告は一定の安定的な賃料収入を得てきたもので、被告がその企業努力により客付けをした転貸借契約を原告が承継する形ともなることその他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、原告が被告に対し、相当額の立退料として100万円を支払うことで、正当の事由を補完することができるというべきである。
東京地方裁判所令和7年2月21日判決
マスターリース契約の解約が認められた事例
マスターリース賃料:月額7万5000円
サブリース(転貸)賃料:不明
立退料:37万5000円(賃料の5か月分)
(判旨抜粋)
また、原告は、本件建物の売却を希望しており、原告自身が本件建物を使用することは予定していない。
これらの事情からすれば、原告が本件建物を使用する必要性は高いとはいえない。もっとも、①原告が、多額のローンを負担して本件建物を購入したこと(認定事実(2))や、②原告の本件建物に係る支出(ローンの返済額を含む。)の合計額は、被告から受領する賃料額を超えていること(同(3))、③原告が本件建物の売却を希望していること(原告本人)、④一般に、本件建物のようにサブリースの付帯した物件は、そうでない物件に比して売却価格が低くなり得ること(弁論の全趣旨)等の事情からすれば、原告においては、本件契約1を解約し、本件建物をより高額で売却する必要性が、一定程度存在するものといえる。
イ 他方で、被告において、本件建物を自己使用する目的はなく、被告は、転貸差益(第三者に対する本件建物の転貸料と本件契約1の賃料との差額による利益)を得る目的があるものと認められる(弁論の全趣旨)。また、本件建物の転貸差益は、最高でも月額8000円であり、高額とはいえない上、転貸が行われていない時期もあり、かつ、令和5年4月22日以降の転貸差益はマイナスである(認定事実(1))。また、被告の事業規模(甲20)からすれば、本件契約1が解約され、上記転貸差益が得られなくなったとしても、被告の事業全体に与える影響が大きいとは認められない。したがって、被告による本件建物の使用の必要性は、高くないといえる。
(2) その他の事情
ア 本件契約1の終了により、原告は、被告と第三者(転借人)との間の本件建物の転貸借契約について、その転貸人たる地位を承継する。したがって、本件契約1の解約によって、転貸人の地位は大きく影響を受けない。
イ また、本件契約1においては、前提事実(2)イ⑤のとおりの期間内解約の規定があった。
(3) 立退料
上記(1)及び(2)その他の本件における一切の事情を考慮すると、原告が被告に対し、相当額の立退料として37万5000円(本件契約1の賃料5か月分に相当し、被告の転貸差益の最高値の3年10か月分以上に相当する。)を支払うことで、正当事由が補完されるというべきである。
東京地方裁判所令和6年10月2日判決
オーナーチェンジにより賃貸人となった所有者からのマスターリース契約の更新拒絶が認められた事例
マスターリース賃料(保証賃料):月額71万3150円(税込)
サブリース(転貸)賃料(満室想定家賃):月額83万9000円
差額12万5850円
立退料:500万円(賃料の約7か月分、転貸差益の約397か月分)
(判旨抜粋)
(1) 借地借家法28条の適用の有無
本件賃貸借契約は、原告が被告に対して本件建物を使用収益させ、被告が原告に対してその対価として賃料を支払うというものであって、建物の賃貸借契約であると認められる。そうすると、本件賃貸借契約は、借地借家法の適用対象であり(最判平成15年10月21日・民集57巻9号1213頁参照)、同法28条の規定についても適用があるものと解される。これに反する原告の主張は採用することができない。
なお、原告は、本件売買契約締結後、被告担当者から、原告からの終了通知のみで本件賃貸借契約を終了させることができる旨の説明を受けたと主張するところ、証拠(甲9)によっても、被告の担当者は契約書記載の一般論を説明したにとどまるものであって、原告の追加金銭負担については何ら触れていない。その後、被告から契約の終了を拒絶する正式な回答がされたことは前提事実(3)のとおりである。上記経過に照らし、被告が本件賃貸借契約終了を争うことが信義則違反となるとはいえない。
(2) 借地借家法28条の正当事由の有無
ア 借地借家法28条は、賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮し、正当の事由があると認められる場合に、建物賃貸借の解約の申入れが許されるものとしている。
イ 本件賃貸借契約の正当事由の存否の判断に当たっては、以下の事実を考慮する。
〈1〉 原告の自己使用の必要性
原告は、収益目的で本件建物を購入したものであり、原告において本件建物を自己あるいは原告の代表者等、密接に関連する者において現実に使用する予定があるとは認められない。原告は資産管理を行う会社として、自ら本件建物を管理し、必要な修繕を施し、本件建物の転借人から直接賃料の支払を受けることを望んでいる。原告は、将来的には本件建物を売却することも検討しているが、具体的な予定はない(以上について、甲33、原告代表者)。
〈2〉 被告の自己使用の必要性
被告は、本件建物を賃貸(転貸)して賃料を得ているものであり、被告における本件建物使用の必要性は、これを転貸して経済的利益を得ることにある。被告における本件賃貸借契約に係る平均年間収益は164万7822円であり、転貸による収益以外の収益を含めれば193万5124円である(乙8~10)。
〈3〉 継続期間
本件賃貸借契約は、平成9年頃に当時の本件建物の所有者であったDと被告との間で締結されたものであり、その後更新を重ね、令和3年5月31日時点で締結から約24年が経過している。
〈4〉 終了後の賃借人の扱い
本件賃貸借契約が終了した場合、原告が被告の転貸人の地位を承継することとなり(甲5・本件賃貸借契約19条)、本件建物の転借人の地位が不安定になることはない。
〈5〉 本件建物の経年劣化
本件建物は平成9年3月12日に建築されたものであり、令和3年5月31日時点で建築後約24年が経過し、経年劣化による補修の必要性が生じている(甲28)。
ウ 検討
原告側の主たる事情は、資産管理を業とする法人である原告の収益の機会を確保するというものであり(〈1〉)、自らあるいは関係者が本件建物の使用を必要とする場合、あるいは本件建物の早急な売却を必要とする事情がある場合等と比較すれば、本件賃貸借契約を終了させる必要性は大きいとはいえない。
他方、被告の自己使用の必要性は、転借人に使用させるためのものであって、被告として現実の建物利用を必要とするものではなく、転借人からの賃料等による経済的利益の獲得を目的とするものであるから、その性質は原告と同一である(〈2〉)。本件賃貸借契約が終了する場合であっても、転借人の本件建物の利用は、原告が被告の地位を承継することにより保護されるから、特段考慮する必要はない(〈3〉)。
本件賃貸借契約は、更新を重ね、新築時である平成9年から令和3年5月31日まで約24年間継続し、契約期間を2年とすれば、11回にわたり更新されてきたものであり、サブリースを業とする被告においても既に本件建物の価値に応じた十分な利益を得たものと考えられる(〈4〉)。このことに加え、本件建物は建築後約24年を経過して相応に経年劣化しており、大規模な修繕を要すると認められるところ(〈5〉)、原告は本件建物の直接管理を希望しており、本件建物の所有者である原告が転借人と直接応対することで、本件建物の管理及び修繕が円滑に行われ、本件建物の社会的価値が維持される可能性は高いといえる。
上記のとおり、原告の本件賃貸借契約終了の必要性は原告の収益の機会を確保するというものであって、強いものとはいえないものの、被告の自己使用の必要性も経済的利益にとどまること、また、既に被告において約24年間の使用収益期間を経ることで相応の経済的利益を得たと考えられることからすれば、被告において原告から一定の財産上の給付を受けることにより、原告において本件賃貸借契約終了にかかる正当事由を具備し得るというべきである。
(3) 正当事由の補完としての財産上の給付
正当事由の補完としての財産上の給付を検討するに、本件の約定契約期間が2年であること、被告の年間平均収益は、転貸収入を前提とすれば164万7822円、転貸収入以外(修繕工事の事業収益や業者の紹介等)を含めれば193万5124円であることを踏まえ、前者の約3年分である500万円とするのが相当である。
東京地方裁判所令和7年9月8日判決
マスターリース契約の解約が認められた事例
マスターリース賃料:月額約6万3000円
サブリース(転貸)賃料:不明(月数万円程度)
立退料:37万8000円(賃料の約6か月分)
(判旨抜粋)
(2) 正当事由に基づく解約申入れについて
ア 前記前提事実に証拠(甲19の1・2)、裁判所に顕著な事実及び弁論の全趣旨を併せると、原告X2が、被告に対し、甲18賃貸借契約につき、解約申入れの通知をしたこと、原告X2が解約の申入れをしたのは、本件建物2の転借人と直接賃貸借契約を締結することによって、甲18賃貸借契約に係る賃料よりも高額な賃料を収受することを企図するとともに、本件建物2を将来的に売却する場合、原告X2と被告との間の賃貸借契約、つまり、いわゆるサブリース契約が存在すると、その売却額が低下すると考えられることから、かかる売却額の低下を防止するためであったこと、原告X2は、本件和解期日において、和解の申出として、正当事由を補完するため、賃料6か月分37万8000円の立退料の提供を申し出たことが認められる。
イ 原告X2は、本件建物2を収益物件として保有しており、現実にこれを自ら使用する必要性があるわけではないものの、転借人と直接賃貸借契約を締結してより高額な賃料を収受し、売却を余儀なくされた場合に、より高額での売却を希望して、解約申入れをしたものであるところ、かかる事情は、他の事情との総合考慮によっては、一応は借地借家法28条の「建物の使用を必要とする事情」に該当し得る。
ウ 他方、被告は、自己が転貸借契約を締結する転借人に本件建物2を使用させることで賃料差益を得るという意味で「建物の使用を必要とする事情」を有するところ、原告X2が明渡請求をせず、指図による占有移転のみを求めている事案においては、被告が建物の使用を必要とする事情として、転借人の居住利益を考慮する必要はなく、被告の経済的利益を考慮すれば足りることとなる。
エ そして、甲18賃貸借契約の賃料額が1か月6万3000円程度であって、その賃料差益も1か月数万円程度と目されること、更新後の甲18賃貸借契約の賃貸借期間が2年間であることに加え、これまで認定した一切の事情を考慮すると、本件立退料の額は、賃料の6か月分である37万8000円とするのが相当である。

