A 賃貸人が、賃料の支払いについて受領拒否をする場合には供託をし得ますが、受領拒否をしていない場合には従前賃料(又は相当な賃料)を賃貸人に支払わなければ賃料不払いとなり債務不履行解除がなされる可能性があります。
受領拒否による供託は、民法第494条第1項第1号を根拠にします。「1 弁済の提供をした場合において、債権者がその受領を拒んだとき。」に弁済の目的物(賃料)を供託することができます。その前提として、賃料について「現実の提供」(民法493条本文)をしたものの受領拒否されたという事実が必要です。もっとも、貸主が「あらかじめ」受領を拒んでいる場合には、現実の提供を要せず、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告を行う「口頭の提供」で足りるとされています(民法493条ただし書き)。また、あらかじめ受領拒否の意思が明確な場合、口頭の提供も不要とした裁判例があります(最高裁判所昭和32年6月5日判決)。
賃借人としては、賃料増額紛争において交渉の手段の一つとして供託を検討することとなりますが、受領拒否の事実の立証ができなければ賃料不払いとして債務不履行解除を主張される可能性があり、また供託が弁済として認められず遅延損害金を支払わなければならないこととなる可能性があります。したがって、受領拒否について客観的な証拠が固まっていない限り、供託は選択肢として取りづらく、従前賃料(又は相当な賃料)を従前の支払い方法によって支払うこととなります(借地借家法第32条第2項)。
賃貸人としては、まず賃料増額請求権の行使の際に、受領拒否と受け取られる記載をしないよう注意が必要です。また、供託をされた場合には、まず供託の要件が揃っているかを確認し、揃っていなければ債務不履行解除を検討します。要件が揃っており、供託金を受領したい場合には、賃料の一部としてとの留保をつけて受領し、その旨を賃借人にも通知します。
最高裁判所昭和32年6月5日判決
最高裁判所平成8年7月12日判決

